私家版・心理学の本棚

じょー、本を読んでいろいろ書くことを決意。

『子どもとお金: おこづかいの文化発達心理学』(高橋登 他)

『子どもとお金: おこづかいの文化発達心理学

高橋登・山本登志哉(編著) 東京大学出版会 2016年 

子どもとお金: おこづかいの文化発達心理学

子どもとお金: おこづかいの文化発達心理学

 

  

編著者の名前の上昇志向がすごいですね。

それはさておき、おひさしぶりです、じょーです。子どもを産んだり、育てたり、産後うつ気味になったり、職場復帰したり、ふらふらと暮らしております。元気は元気です。

なかなか本が読めないのがやはり悩みではありますが、逆に考えれば、いままで本をたくさん読んだので、いまは少し読むほうは抑え気味でも、アクティブラーニング的な学びにはなっているような気がします。いままで読んだ本で得た知識を、目の前で起こる子育てのあれこれにあてはめながら、「あれはこういうことだったのか~」と実感する日々です。やっぱピアジェ、すごいな、とか、心理学者の兼業で親業を営む人なら一度は通る道なのでしょうが、それにしたって、やっぱピアジェすごいなあ。

 

今回紹介するのは『子どもとお金』です。出たときに買って(高かった…)、積んでおいたんですけど、出産と育休と職場復帰の流れの中で、「研究に役立つことも少しはしているんだ」という気持ちがほしくてとうとう開いたという次第です。

日本・韓国・中国・ベトナムで、子どものおこづかいと親子関係などについて調査した研究のまとめ本です。もともとは科研みたいです。

kaken.nii.ac.jp

 

お金は経済的な道具であるだけでなく、文化的な道具であると考え、子どもはおこづかいでいろいろ買ったり、買ったものを友達に分け与えたりしながら、お金をどう使いこなせばいいのか学んでいくんだということを、データを示しながら論じています。そして、「こういうふうに使うのがいいよ」というのは文化的に定まっているので、国が違えば子どもの試行錯誤の中身も違うわけです。(本来的には国が違うからではなくて、共同体が違うから違うのでしょうが、ここは簡単な記述で勘弁してください。)

子ども観、大人観も国によって違うわけですが、「お金と人間関係観」も国によって違います。対象4ヶ国の中では、「絶対割り勘の日本」と「おごりあうべき韓国」が対照的に示されていました。割り勘の国・日本では、親も子どもに「お友達と遊ぶときには、自分の分は自分で払いなさい」と言うし、おごりの国・韓国では、親は子どもに「お友達とかわりばんこにおごるんだから、自分の番になる前に、お金あげるから、言いなさいね」と言うわけです。どちらが正しいとかではなくて、それぞれに適応すべき場面があり、それを目指していろいろな調整があるということでしょう。

この本は結構豪華で、研究プロセスにおいてTEM(複線径路・等至性モデル)がうまれていたり、そもそも科研の額も結構リッチだったり、各国の詳細についての章はそれぞれの研究者が書いていたり、といった具合で、読んでいてお得感がありました。なお、各国の詳細の章は、比べながら読むとおもしろいです。中身ではなく、筆致を比べてください。心理学の発展度合いが国によって違うので、「研究は国力を反映している」ということがよくわかります。 

複線径路等至性アプローチ

TEMでわかる人生の径路 質的研究の新展開

TEMでわかる人生の径路 質的研究の新展開

 

 あと、子どものおこづかいについての説明を読む際に、観光客的な悦びがありました。子どものおこづかいの使い道って、どこの国でも食べ物がメインなので、「ご当地おやつ」の説明が何回か入っていたんですね。「子どもがおやつに食べるようなもの」って、どの国にもあるんですねえ。かわいらしくてほっこりしました。

私の指導教員は、「博論は星座のように楽しんで読むもの」と言っていましたが、この本のような大型プロジェクトのまとめ本も同じかもしれません。重箱の隅的視点は捨て、全体を眺めながら学びを得る態度で臨むとよいと思います。「子どもとお金」と「文化発達心理学」というキーワードはありつつも、著者ごとに気になった点、目についた点は違うので、そのへんも味わいながら読み進めるとより楽しめます。

高いけど、おすすめです。

 

文化と子育てといえば、こちらもおすすめです。

『こんなにちがう!世界の子育て』

メイリン・ホプグッド(著) 野口深雪(訳) 中央公論新社 2014年

 

psychologicalbookshelf.hatenablog.com

 

『ぼくは物覚えが悪い:健忘症患者H・Mの生涯』(スザンヌ・コーキン)

『ぼくは物覚えが悪い:健忘症患者H・Mの生涯』

スザンヌ・コーキン(著) 鍛原多恵子(訳) 早川書房 2014年

ぼくは物覚えが悪い:健忘症患者H・Mの生涯

ぼくは物覚えが悪い:健忘症患者H・Mの生涯

 

 「心理学」という講義で教科書が指定されている場合、だいたいその教科書には「記憶」という章があり、その本文かコラムにおいて、「脳の損傷で長期記憶を失ったHM」が紹介されています。

『ぼくは物覚えが悪い:健忘症患者H・Mの生涯』は、その、HMについての本です。

生前は本名が公開されていませんでしたが、死後、新聞の死亡記事で本名が公開されました。名前は、ヘンリー・グスタフ・モレゾン(Henry Gustav Molaison)といいます。

HM (患者) - Wikipedia

MIT150 Exhibition Nomination (←写真が見れます。)

本書は、HMを最も長く研究した研究者であるスザンヌ・コーキンのおそらくは最後の仕事です。

Suzanne Corkin - Wikipedia

読み終わってから検索して知ったのですが、原書が2013年に刊行され、日本語訳が2014年に刊行されているわけですが、スザンヌ・コーキンは2016年に79歳で亡くなったとのことです。ヘンリー・モレゾンが2008年に82歳(かな?)で亡くなったことを考えると、スザンヌ・コーキンは、それこそ一生をかけてヘンリーを研究していたことになります。

ちなみに、スザンヌ・コーキンはHMの研究をしていた研究室に入った関係でHMの研究をし続けることになったのですが、その指導教員はブレンダ・ミルナーという人で、なんと、まだ生きています。2018年現在、99歳だそうです。(6月の誕生日で100歳になる模様…!)ブレンダ・ミルナーは途中で研究上の興味が他に移ったようで、HMの研究には初期に関わっただけのようです。

Brenda Milner - Wikipedia

しかし、HM存命時点で、ブレンダ・ミルナー>HM>スザンヌ・コーキンという年齢順だったわけですが、最年長者が一番長生きとは…。寿命って、ほんとうに神のみぞ知るの世界だな、と思います。

 

さて、本書ですが、主な内容は(1)ヘンリーの思い出話と(2)ヘンリーの研究からわかったことの解説です。前半と後半は(1)に関する内容の割合が多めで、真ん中あたりの章は(2)の内容が多めです。

当然ですが、HMは教科書のコラムになるために生まれてきたわけではなく、あくまでも、施術当時には予見できなかった手術の失敗によって記憶機能の一部を喪失した障害者です。ですので、私は素朴に「記憶がなくてどうやって生活しているんだろう?」とか、「仕事とかできないと思うけど、生活費はどうなってるんだろう?」とか、大学の教科書のコラムでHMのことを知ったときに思いました。思い出話の中には、障害者のための作業施設に通っていたことがあるとか、アメリカの障害者用の福祉制度を活用していたとか、そういうことも書いてあって、私の長年の疑問に答えてくれる内容でした。他にも、家族や親戚のこと、施設での暮らしぶり、実験に参加した際にこんなふうなことを言っていた、というようなことも存分に紹介されています。

研究については結構骨太で、脳のことを体系立てて勉強してこなかった私にはやや難しめだったのですが、検索しながらなんとか読みこなしました。心理学の実験手法も各種紹介されていて、そちらもなかなか難しめだったので、大学1年生で読むのはちょっと難しいかもしれません。プライミングとか条件づけとかのちょっと細かい分類まで先に勉強してからなら読めると思います。

基本的には、スザンヌ・コーキンとHMの出会いを起点として、時系列に沿って章が展開されていきます。なので、最後にはHMが死んでしまいます。スザンヌ・コーキンは研究時以外にもHMの生活について一知人として関わっていくのですが、一方でやはり研究者でもあり、HMが死亡する数年前からHMの死後の脳保存に向けて計画を整えていき、HMが死亡するとすぐさま脳の保存に取り掛かります。その様子がとてもマッド。50年近く共に過ごした相手を失ったあと、「泣いてる暇はない」とばかりにガンガンことを進め、HMの脳を取り出します。(※本人は外科医じゃないので、実務はほかの人。)研究者としてのアイデンティティと、友人を失った人間としての感情の混ざった感じがとてもマッドで、読みながら、「おおう…」と声が出てしまいました。

ある意味で、「一人の人間が人間一個体をずっと研究対象にするのは難しい」ということを知ってしまうような本です。マウスやラットやウミウシは、やはり人間よりずっと寿命が短いし、言葉が通じないから実験動物にしてもなんとか研究者の心が持つけれども、人間を対象にすると心のバランスが取れないのじゃないかと思います。そのマッドな心情に触れられるのも、この本の特徴かもしれません。

英語版のハードカバーのデザインは、そんなスザンヌ・コーキンの気持ちを反映するようなデザインになっています。海馬損傷後のヘンリーがいきいきと思い出せた2つの思い出のうちの1つである、「少年のころの飛行機搭乗体験」をイメージした写真でしょうね。友人としてヘンリーの生涯や世界への貢献について、いろいろな人に知ってほしいという人間的な気持ちが伝わるようなデザインです。日本語版のカバーデザインも私は好きですが、英語版のハードカバーのデザインも、読了したいま、意味がわかるだけに素敵だなと思います。

Permanent Present Tense: The Unforgettable Life of the Amnesic Patient, H. M.

Permanent Present Tense: The Unforgettable Life of the Amnesic Patient, H. M.

 

スザンヌ・コーキンがヘンリーの葬儀で読んだ弔辞の最後の一文、「皮肉なことではありますが、彼が忘れ去られる日は永久に訪れないでしょう」、この言葉を理解するために、本書はあるのだと思いました。大変おすすめの1冊です。

 

ちなみに、次に時間ができたらこれを読みたいなと思っています。ハーロウについての本。こちらも楽しみです。

 

『愛を科学で測った男』

デボラ・ブラム(著) 藤澤隆史・藤澤玲子(訳) 

愛を科学で測った男―異端の心理学者ハリー・ハーロウとサル実験の真実

愛を科学で測った男―異端の心理学者ハリー・ハーロウとサル実験の真実

 

 

『心理学史への招待』(梅本尭夫・大山正)

『心理学史への招待』

梅本尭夫・大山正(編著) サイエンス社 1994年  

心理学史への招待―現代心理学の背景 (新心理学ライブラリ)

心理学史への招待―現代心理学の背景 (新心理学ライブラリ)

 

 

なぜか2冊持っています…。1冊は廊下で拾った(研究室の大掃除で除籍された本が、「ご自由にどうぞ」になっていたのでもらってきた)もので、もう1冊はそれをすっかり忘れてAmazonで買ったものです…。

かれこれ10年も心理学をやっているのに、心理学史はなんだか苦手で、本を持っているのに読まずにいたんですよね。しかし、「心理学」というド直球の科目も担当していますし、そろそろ勉強しておかねば…と思い、とうとう開いた次第です。(ちなみに、廊下で拾ったほうを読みました。)

普通の心理学の教科書は、トピックの重要度を中心に章を配置しています。そして、それぞれのトピックについて、大きな理論から小さな理論へ、という順番に話題を並べていきます。

たとえば、有斐閣の『心理学』は、脳・知覚・学習~情動・性格・発達~社会~適応と心理療法~と並んでいて、より大きなルール(神経)からより個別の事情(臨床)という流れが見て取れます。

心理学 | 有斐閣

psychologicalbookshelf.hatenablog.com

 

そうやって教科書になっている内容を、それぞれの理論が提唱された時間的流れの順に並べなおしたのが、心理学史というものなのでしょう。

なので、心理学をそこそこ勉強していれば、初めて聞く専門用語はほぼ出てこないと思います。知っていることが、「時間の順に」並んでいるだけです。

ただ、時間の順に並べたときには重要な人物でも、手短な教科書を作るときには省かれていたりするので、「誰これ…」という人は結構出てきた気がします。

たとえば、有斐閣の『やさしい教育心理学』では、ブルーナーは1段落程度しか出てこないのですが、『心理学史への招待』では、本文で足掛け2ページにわたって触れられている上、コラムでも1ページまるまる紹介されています。時間の順に並べたときに、Aさん→Bさん→Cさん、と学問的影響があったときに、Bさんを紹介しないわけにはいかないけれど、Bさん個人の理論はそのあと別の理論に取って代わられて、いまは一般の教科書でもほとんど紹介されていない、というようなことがあるのだと思います。(その点、ブルーナーは一般の教科書でも名前を見かけるので、偉人ですね。)

個人的に、統計は苦手だけど統計の歴史の本を読んで、統計学者たちの人間関係を垣間見、少し統計への苦手意識を減らせたという経験があるので、『心理学史への招待』も、心理学の勉強が少し進んできて、概念や研究者がごちゃごちゃしてきたときに読むといい本だなと思いました。

ちなみに、苦手を克服するために読んだ統計の歴史の本はこちらです。 フィッシャーがすごく歪んだ人物だったので、分散分析がなんとなく呪われているように思えてくるほどでした。

統計学を拓いた異才たち(日経ビジネス人文庫)

統計学を拓いた異才たち(日経ビジネス人文庫)

 

 

何事も、多様な方法で学びなおし、定着を図るのがよいようです。また少し、賢くなれました。 

  

有斐閣の『やさしい教育心理学』は、下記の記事で少しだけ紹介しています。

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 掘り下げ系の心理学史の鉄板はこちら。

 

『オオカミ少女はいなかった――心理学の神話をめぐる冒険』

鈴木光太郎 新曜社 2008年 

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『こんなにちがう!世界の子育て』(メイリン・ホプグッド)

『こんなにちがう!世界の子育て』

メイリン・ホプグッド(著) 野口深雪(訳) 中央公論新社 2014年

 

こんなにちがう!  世界の子育て

こんなにちがう! 世界の子育て

 

 

アイデンティティとライフサイクル』を読んでる間に妊娠しました。

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ということで、子育ての本でも読んでおくか、というわけです。

ですが、ベテラン保育士おばさんとか、子どもを全員医学部に合格させた専業主婦とかの「アタシはこうした!」という自慢話本なんかうっかり買ってもお金の無駄なわけです。

そういうときは、海外の本に限ります。特にアメリカは、子育てに社会科学の知見を取り込むことにかけてはもはや病気の域で、伝統に従うことにかけては病気の域である日本人の私にとっては「毒を以て毒を制す」ためにぴったりな毒なわけです。

Amazonでなんとなく検索して、良さそうだから買ったんですけど、買った自分を褒めたいですね。良い本でした。

著者はジャーナリストの女性で、本書執筆時点では、夫とともに幼児(女の子)1人を育てています。

この著者のバックグラウンドがすごくて、台湾生まれの中国系なのですが、養子としてもらわれて、アメリカでアメリカ人に育てられてるんですね。しかも、執筆時点では、アルゼンチンのブエノスアイレスに住んでいます。(本の後ろの著者紹介には、現在アメリカに戻り、大学教員になったとあります。子どもも2人に増えたようです。)

現在の著者の様子はこちら。

Mei-Ling Hopgood - Medill - Northwestern University

この本の一番のメッセージは、帯などにもあるように、「育児の正解はひとつじゃなかった!」ということです。

著者はアメリカ人家庭で育ち、アメリカの文化や規範を当然のように受け入れているわけですが、海外勤務の経験や中国の親戚との付き合い、また、積極的な取材を通して、アルゼンチン、中国、フランス、ケニアなど、いろいろな国のいろいろな子育てについて紹介しています。その中には、実際に取材のために訪問し、現地の人に話を聞いたものもありますが、アフリカのアカ族を扱った章のように、学者の専門的な本の紹介を中心としたものもあります。

いずれよせよ、子育てや教育の本にありがちな、「〇〇国の方法が世界一!」というような憧れベースの観点ではなく、「これもある、あれもある、いろいろある、良い点についてはできる範囲で取り入れてみよう」という態度を貫いている点が立派だと思いました。

全体として、いろいろな学者・専門家の意見が紹介されています。睡眠などの医学的な内容の章では医者に電話取材をしていますし、アカ族のことでは文化人類学者の本から紹介し、しつけなどに関することでは心理学者の意見も紹介しています。考えてみれば、家庭というのは非常に応用的かつ学際的な現象で、心理学者の専売特許などではないのです。家庭という現象を扱う学者なら誰でも、学問分野にとらわれずに紹介しているところが、やや視野が狭くなっている私には新鮮でした。特に、アカ族の章はおもしろいのでオススメです。

ちなみに、日本も紹介されています。第8章「日本人はどうして子供のケンカを止めないのか」という章です。他の章は紹介する国の文化を褒めている割合が多いのですが、この章だけ明らかに、「いかがなものか」という雰囲気をにじませています。(それでも、少しは褒めて取り入れています。)

自分が良い親になれるのかはわかりませんが、「子どもにとって良い親でありたい」という気持ちを思想と行動で表せるようでありたいな、とこの本を読んで思いました。外野の言う「良い親なら子どもに〇〇をしてあげるはずだ」という言葉は無視し、効果的に行動できるようにしたいと思います。

アメリカにも、アルゼンチンにも、アフリカにも、良い親はいる。これはつまり、「良い親」というのは、1つの基準で決まるものではないということです。

今後、子育てにつかれて視野が狭くなる日もあるかもしれませんが、そんなときにはまたこの本をパラパラとめくりたいと思います。

応用心理学会の会員として、心理学を子育てにしっかり応用して楽しみたいところです。

 

それはそうと、夫婦関係も発達していきます。子どもも楽しみだけれど、配偶者のこともお忘れなく、ってね。

 

『夫と妻の生涯発達心理学

宇都宮博・神谷哲司(編著) 福村出版 2016年

 

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『アイデンティティとライフサイクル』(E. H. エリクソン)

アイデンティティとライフサイクル』

E. H. エリクソン(著) 西平直・中島由恵(訳) 誠信書房 2011年 

 

アイデンティティとライフサイクル

アイデンティティとライフサイクル

 

  

周りにアイデンティティの研究者が多いので、教養ということも含め、読んでみました。教科書に必ず出てくる心理・社会的危機の図とかの出典の本ですね。自分の中では孫引き度の高い知識になっていたので、エリクソンはどう書いているのかな、と思いながら読みました。

読んでみての感想は、「広々とした理論だな」というとことです。

研究界隈では、アイデンティティってすごく内的に扱われがちで、個人的には好きではなかったのです。ですが、エリクソンの書いたものでは、人は他者から刺激を受けてさらに発達することができるのだ、という視点が強調されていて、とても好感が持てました。また、臨床例などから、青年期に不適応を呈していたとしてもその後カバーできるのだ、そんなに心配しなくていいんだ、と述べられていて、大変に勇気づけられる内容だと思いました。

翻って、現代の青年心理学者は大学にいるからか、青年を型にはめて、さっさと年齢相応の大人にしたい…という下心丸出しの研究になりがちなのではないかな、と思いました。

ところで、訳者の中島さんのあとがきも秀逸です。翻訳作業中、東日本大震災で、幼子を抱えて被災されたそうなのですが、そのときに、エリクソンがこの本を通して伝えていたことが身をもって理解された、と書いているのです。

そういうふうに本を読む人のことが、私は好きです。

訳も平易で読みやすいですし、大学で心理学の授業を受けて、アイデンティティに興味を持った学生でも読めると思います。また、生涯発達の話なので、一生のうちに2度、3度と繰り返し読み、理解を深めるのもよいと思います。

かくいう私も、読んでる途中で妊娠が発覚し、また発達段階をひとつのぼってしまったようです。

まだまだ心理学が深まりそうで、楽しみです。

 

最近、こちらも出版されたようなので、今度買おうと思います。

 

アイデンティティ:青年と危機』

E. H. エリクソン(著) 中島由恵(訳) 新曜社 2017年  

 

アイデンティティ: 青年と危機

アイデンティティ: 青年と危機

 

 

 

研究に興味がある人には、こちらなんかどうでしょう。

 

『自我同一性の人格発達心理学

谷冬彦(著者) ナカニシヤ出版 2008年

 

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青年心理学全体に興味を持った人はこちらなんかもどうぞ。全体像がわかります。

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『性格を科学する心理学のはなし―血液型性格判断に別れを告げよう―』(小塩真司)

『性格を科学する心理学のはなし―血液型性格判断に別れを告げよう―』

小塩真司 新曜社 2011年

 

知っている人の本を書評を書くのは恥ずかしい…。

とりあえず、著者情報はこんな感じ。

 

早稲田大学 小塩真司研究室

 

twitter.com

 

心理学の本って横書きが多いのですが、この本は縦書きです。

なんとなく、横書き=研究の本、縦書き=教養の本、というイメージがあります。

サイエンス社のこのシリーズなんかも縦書きです。

psychologicalbookshelf.hatenablog.com

 

あと、『オオカミ少女はいなかった』も縦書き&新曜社です。企画的に結構似ているのかもしれません。

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心理学の道に入って10年、血液型性格判断との付き合い方っていまいちわかりません。

自分は齢30、いまだに自分の血液型を知らないので、「ナニ型だからナニな性格よね」という言説を自分もしないし、人のもスルーできるし、そもそも血液型性格判断のテンプレをいまだに覚えられない…というありさまだからです。というか、人の性格にあんまり興味ないのかも。最近は、「世の中にはいい人と苦手な人がおり、苦手な人からは距離を置く」というまるでゴキブリの走性のような動きでもって人間社会を乗り切っているような気がします。あれれ…パーソナリティ心理学会に入っているはずなのに…性格に興味がなくなってきている…?まずい…?

それはそれとして、心理学徒として、血液型性格判断を信じている人たちに心理学の知見を教え広めなくては…という使命感はあるのですが、そもそも自分にとって身近でないので、「本当に血液型性格判断なんて信じてる人いるのか…」と思ってしまいがちです。論破するにも、そういうことを信じている人に会ったことがあまりないので、論破する必要があるのだろうか…などと思ってしまいます。

もしかしたら、社会的に最強の血液型は「血液型不明」なのかもしれません。

さて、『性格を科学する心理学のはなし―血液型性格判断に別れを告げよう―』はタイトルの通り、血液型性格判断はおかしいよ、という切り口から、パーソナリティ心理学を紹介する本です。縦書きだけあって、心理学を勉強したことがない人向けで、読み進めるうちに方法論の仕組みについても少し明るくなります。紹介されているパーソナリティ理論は、入門書に出てくるものがきっちり紹介されています。さすが小塩先生、ちゃんとしている…。

しかしながら、小ネタもきっちり入っていて、ポケモンとかモンティ・パイソンとかいう言葉がちらほら出てきます。小塩先生は以前お会いしたときも何かモンティ・パイソンの話をしていた記憶があり、私の中では小塩先生=モンティ・パイソンのイメージです。

モンティ・パイソン - Wikipedia

…?!

プログラミング言語Pythonの名前の由来ってモンティ・パイソンなんだ?!ものごとは意外なところでつながりますな…。(拙宅の配偶者がPython勉強中なので。)

話がそれました。でも、こうやってそれていく余地も、縦書き本の魅力のような気がします。

最近は、学科名に「心理」と入っていないところに在籍する学生たちの教育に関わるようになり、そういうところで+αで心理学を勉強してもらうにはどうしたらいいのかなーと考えることが多いです。学科名の学問をちゃんとしてもらうのが優先なので、もし心理学をもっとしたいと思ったら自習してもらうしかないので、そういうときに薦められる本のリストみたいなものを自分の中で持っておきたいなと思います。いつ聞かれてもいいように。

この本は、そのリストに入るなぁと思いました。過度に教科書過ぎないところがいいです。学生の立場で考えると、「もうちょっと勉強したいんですけど、いい本ありますか?」と聞かれて、アレとかアレとか紹介されたら学習意欲が喪失してしまいます。(※アレには、任意の重くて高い本の名前をお入れください。)

この本を読んで方法論に興味を持ったら、たぶん小塩先生のミライシリーズを読むといいのだと思います。心理統計の本なのに、まさかの小説風。初学者には親しみやすいのではないでしょうか。

 

『大学生ミライの統計的日常』

小塩真司 東京図書 2013年 

 

『大学生ミライの因果関係の探求』

 小塩真司 ちとせプレス 2016年 

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『心理学』(無藤 隆・遠藤 由美・玉瀬 耕治・森 敏昭)

『心理学』

無藤 隆・遠藤 由美・玉瀬 耕治・森 敏昭(著) 有斐閣 2004年 

 

心理学 (New Liberal Arts Selection)
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おひさしぶりです。引っ越しと新生活でインターネットから遠ざかってました。

半年前の記事で「本棚ほしい」と言ってましたが、願いが叶って、壁2面全部本棚という自室を手に入れました。

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願うことを忘れずに生きていきたいですね。

 

最近は、有斐閣の『心理学』を週に1章、読んでいます。しかも、なぜか2回。週に2回も同じ章を読んだら、あっという間に心理学がマスターできますよ。まあマスターを超えてドクターの私が言うのも変ですけれども。

この本は、院試のときに買ったはいいけど、東京大学出版会の『心理学』派だったのであんまり開いてなかったです。改訂されているかと心配しましたが、幸か不幸か改訂されておらず、10年ぶりにもかかわらず普通に教科書として使用しております。 

あの頃は授業されるほうだったけど、いまはするほう。10年あっというま。中身は大学4年生のまんまですけれども。

有斐閣の『心理学』は、なんといっても厚くていい。ふかふかしてるところも好き。乱暴に扱っても許される感じ。読みつぶして賢くなろう、と思えるおおらかな見た目をしています。

中身は分担で執筆されていて、すごく冴えてる章とふつうの章があります。なんというか、紹介しやすい章としにくい章がある。分野の問題なのかそれぞれの著者の向き不向きなのかわかりませんけども。いまのところ、無藤先生担当の発達の章がよかったです。とてもスマートに教科書という感じで。ああいうふうに書けるようになりたいものです。

とりあえず、「心理学のあらましを知りたい!」と思ったらこれを読んでおけばいいと思います。これを頭からおしりまで読めば、「心理学はちょっと勉強したんだけど…」と言ってもあんまり恥をかかないでしょう。東京大学出版会の『心理学』と比べると、冗長なのが有斐閣の『心理学』のいいところで、雑味があってわかりやすい。東京大学出版会の『心理学』は要点だけという感じがします。院試対策として考えると、無駄がないので東京大学出版会のほうが使いやすいという部分はありますが、心理学を勉強する喜びあるいは悦びという点で考えると、有斐閣のほうがいいかなー。

よろこび。

これ以上のことはないですよね。

もう博論は2年も前に終わったのですが、それでも心理学の基本の教科書を読むと、以前読み飛ばしてしまっていたところに目がいったり、新たに気になるところとかが出てきたりして、毎回、勉強になるなあと感嘆します。生きていることは不思議なことだし、わかることもわからないこともおもしろく、18歳のときに思っていた心理学といま感じる心理学は色合いが違っているけれど、もう全部好き。全部、全部。

この4月から、朝から晩まで心理学ができる環境になったので、こころ新たにがんばりたいと思います。

 

有斐閣の『心理学』はところどころ用語の定義が載ってないので、有斐閣の『心理学辞典』を引きながら読んでいます。

右手と左手にそれぞれ持って踊ると、二の腕の筋肉が鍛えられます。

 

『心理学辞典』

中島 義明・安藤 清志・子安 増生・坂野 雄二・繁桝 算男・立花 政夫・箱田 裕司(編) 有斐閣 1999年 

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有斐閣の『心理学』とは対照的に、改訂されまくりの東京大学出版会の『心理学』はこちらです。2、3、4は確か持ってるけど、5は持ってない気がします。あんまり改訂されるのでお財布に悪い…。いずれ買おうとは思いますが、東京大学出版会は学会で見かけないんですよね…。学会で買うと安いから狙い目なんですけど…。お高くとまってるぜ、東大。

 

『心理学 第5版』

鹿取 廣人・杉本 敏夫・鳥居 修晃(編集) 東京大学出版会 2015年 

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