私家版・心理学の本棚

じょー、本を読んでいろいろ書くことを決意。

『夫と妻の生涯発達心理学』(宇都宮博・神谷哲司)

『夫と妻の生涯発達心理学』

宇都宮博・神谷哲司(編著) 福村出版 2016年 

夫と妻の生涯発達心理学
宇都宮 博 神谷 哲司
福村出版
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貧乏なので新刊はあんまり買わない(買えない)のですが、これは買ったわけです。結婚したから。

そう、私はいま、新婚さんである。(配偶者とはまだ同居していませんが。)

そのようなわけで、今後の人生を予習すべくこのような本を読むことに決め、ちゃんと読み切ったのでありました。

読了感という観点では、「さみしくなった」からの、「配偶者との限りある時間を充実させていこうという決意」みたいな感じです。(質的研究法っぽいまとめ方。)

研究書としては、「企画がよかった」の一言に尽きるでしょうね。結婚前のところからはじまって、子どもができるあたり、子育てのあたり、空の巣症候群のあたり、退職と濡れ落ち葉、と、順序良く配置されています。しかしながら、発達段階の後半になるほど例外が増えてくるのはすべての発達心理学の常であり、その分を「研究紹介」というコラムで補っていて、満足感がありました。

節として珍しかったのは、「不妊治療と夫婦関係」、「ペリネイタルロスと夫婦関係」、「子どもの発達障害と夫婦関係」などでしょうか。あと、自分がまだ興味がなかったためか、「夫婦間介-被介護関係への移行」というのも初めて見た内容でした。

今後の結婚生活の予習として読んだため、上のような内容が入っていたのは大変よかったです。人生でつらいのは、想像もしていなかったことが突然起こることだと思うので、将来起こる可能性のある困難を想像させてくれた点で上記の節の執筆者には感謝したい次第です。

でも、最後の節の「配偶者喪失への心理的支援」のところや、最後の「研究紹介」の「生前の夫婦関係と死別適応」を読んで、ああ、いまは大好きな配偶者もいつかは死んでしまうのかもしれない、と思い、大変さびしくなってしまいました。もちろんその後すぐメールしちゃいましたよね。あんまり早く死なないでね、と。

おっと、惚気た!へへへ!拙者、新婚さんでありまして!!

ともあれ、大人になれば、自分が結婚していようがいまいが、身近な人のしんどさを援助するとき、その配偶者や家族というのは否応なく視野に入ってくるわけです。ですから、既婚未婚を問わず、また、自分の結婚がうまくいっているいないに関わらず、世を生きるための備えとして読んでおくといいと思いました。

一方で、ちょっとだけ気になったのは、結構質的研究寄りだったことでしょうか。質的研究は質的研究でよいのですが、仮説の生成後は量的研究も使ってほしいと思います。量的研究は、ある意味では読者に対して「自分にも当てはまる」と思わせる力があると思うんですよね。おそらく、当該箇所の執筆者が看護系だからだと思うのですが、ぜひとも今後は量的研究も使って、それで、20年後くらいにはこの本の後続本が、同じかそれ以上の密度の内容で刊行されることを期待します。

 

結婚の前のところで止まっている人は、こちらをご参考に! 

『イラストレート恋愛心理学―出会いから親密な関係へ』

齊藤勇 誠心書房 2006年  

ちなみに、この記事は下記をBGMとして執筆しました!

「恋」

星野源 ビクターエンタテインメント 2016年  

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『エコロジカル・セルフ』(河野哲也)

『エコロジカル・セルフ』

河野哲也 ナカニシヤ出版 2011年 

エコロジカル・セルフ (クロスロード・パーソナリティ・シリーズ)
河野 哲也
ナカニシヤ出版
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珍しく、買ってすぐに読みました。

車生活になったのと、なんか労働?に従事しているせいでぜんぜん読めなくなってますねえ…。労働は…人間を…ダメにする…。

 

それはさておき、『エコロジカル・セルフ』、めっちゃおもしろかったです!

内容を…ちゃんと理解した自信があんまりないのですが…たぶん…自己…やパーソナリティ…をギブソンの方法で理解する…試み…?みたいな?(分野違いのためギブソンよくわからない…。)

ジェームズ・ギブソン - Wikipedia

アフォーダンス - Wikipedia

ともあれ、わたしのように脳みそに自信のない者でもおもしろいなーと思いながら読み進むことができる丁寧な書き方でした!

実際問題、青年心理学領域で自己の研究を聞いていると、あんまり「周囲の人間(≒環境)との相互作用」って扱われていないなという印象があります。ついでに言うと、青年心理学領域では自己の身体基盤についても問題にされていない印象があります。

その点、本書では、「環境と相互作用する自己」を説明するために、身体基盤についても説明があり、いい感じだなーと思いました。

なんか、こっち方面から、青年心理学の自己研究にふっかけてほしいですねぇ…。

 

それはそれとして、この本には「図6 ホヤの生体」(p.107)というのが載っていまして、おそらく、「ホヤの解剖図が掲載されている唯一の日本語の心理学の本」ではないかと思いました。っていうか、ホヤに限らず、人間以外の解剖図の載っている心理学の本自体少ないですよね。なんというか、「図6 ホヤの生体」を見たときにゲラゲラ笑ってしまいまして、本買う前だったと思うのですけど、読む前にいい気分になれる本って少ないなあと思い、大変感心した次第です。

なんでホヤの解剖図が載っているのか不思議に思った人は、とりあえず買って、p.107の前後を読もう!

 

なお、青年心理学の自我とか自己とかの様子を知りたい人はこちらをどうぞ!

わたしは未読です!すみません!いま読んでる本の次くらいに読みたいと思いますが、いま読んでる本が300ページくらいあるので、年内に手を出せるかわかりませんが!

 

アイデンティティとライフサイクル』

E.H.エリクソン・著 誠信書房 2011年  

アイデンティティとライフサイクル
E.H.エリクソン
誠信書房
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青年心理学会第24回大会で買いました

青年心理学会で買いました。

(結婚したので買いました。)

(福村出版の人に、「5000円は高い」と言ったら、「先生、50年結婚すると思えば年100円ですよ」と言われたので買った。)

(そのやりとりに5000円払ったとしても、おもしろかったので許す。) 

書店の人と話しながら買うのは、お祭りみたいで好きです。

 

夫と妻の生涯発達心理学
宇都宮 博 神谷 哲司
福村出版
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『オオカミ少女はいなかった――心理学の神話をめぐる冒険』(鈴木光太郎)

『オオカミ少女はいなかった――心理学の神話をめぐる冒険』 

鈴木光太郎 新曜社 2008年

 

オオカミ少女はいなかった 心理学の神話をめぐる冒険
鈴木 光太郎
新曜社
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2016年夏・秋の買い物&いただきもの - 私家版・心理学の本棚

これに書いた中の1冊です。4月くらいに知り合いの先生からおさがりでもらったやつを、9月上旬くらいに読み終えました。

縦書きです。縦書きの心理学の本、久しぶり!!(臨床とか論考系のものからどれだけ遠ざかっているか、ということですね。)

オオカミ少女からワトソンのアルバート坊やまで、大学1年生の心理学の教科書に出てきてしまう由来の曖昧な「神話」について、コテンパンにする本です。

「神話」が生まれた状況は、研究者が意図を持って捏造したと疑われるものから、「論文で諸々省略しすぎ」というグレーゾーン、はたまた「世間に出すとき話盛りすぎて収拾つかなくなった」というものまで、いろいろのようです。(捏造って、研究費の偏りみたいなものから生まれると思っていたけど、単純に目立ちたいとか学者として名を馳せたいとかいう動機でも起こるんだなあと素朴に感心しました。いつの時代もするやつはする、というのが捏造なのかもしれません。)

全体として、よく調べてあるし、とても勉強になるのですが、「神話を紹介することを禁じられた教科書執筆者は、どうやって初学者の気を引けばよいのだろう?」というところが少しだけ引っかかりました。「神話」は、教科書の中で、教科書の本論と読者をつなぐ役割をしていると思います。そして、本論は読者の日常生活やそこにおける思考と乖離しています。そのため、その距離を縮めるために「神話」が紹介されるのではないでしょうか。教科書執筆者だって「神話」の得体の知れなさには薄々気がついていたと思うのですが、「神話」が読者に与えるものが大きいがゆえに使ってしまうのだと思います。「神話」はいけない、というのは当然わかりますが、じゃあどうするの、というところに対し、本書はなかなかクリエイティブな答えを提示していなかったような気がします。

まあ、論文の査読と同じで、審査する方は言いっぱなしでいいという考えなのかもしれませんが。

ともあれ、勉強になるので、非常勤講師として授業を持ち始めたら、一読しておくことをおすすめします。

ちなみに、増補版が出ていますので、そちらのほうが安くて内容もあるのではないかと思います。(私は持っていませんが。)

 

『増補 オオカミ少女はいなかった:スキャンダラスな心理学』

鈴木光太郎  筑摩書房 2015年 

増補 オオカミ少女はいなかった: スキャンダラスな心理学 (ちくま文庫)
鈴木 光太郎
筑摩書房
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 心理学史の本としては、こちらももらった(上にもらったことを忘れてしまいさらに買ってしまって2冊持っている)のですが、いまだ読んでおりません。(最初に入手してからもう7年くらいになると思います。)

勉強…したい…。

 

『心理学史への招待――現代心理学の背景』

梅本尭夫・大山正 サイエンス社 1994年  

心理学史への招待―現代心理学の背景 (新心理学ライブラリ)
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2016年夏・秋の買い物&いただきもの

ブログとめすぎクソワロタ、しか言葉がないです。

見えない何かが毎日すり減っていくような夏でした。

 

さて、この夏と秋に買った本&いただいた本。

本の下に説明をつけることにします。

 

 

心理学手帳[2017年版]
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創元社
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アイデンティティとライフサイクル
E.H.エリクソン
誠信書房
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オオカミ少女はいなかった 心理学の神話をめぐる冒険
鈴木 光太郎
新曜社
売り上げランキング: 150,206

  

 

マシュマロ・テスト:成功する子・しない子
ウォルター・ ミシェル
早川書房
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エコロジカル・セルフ (クロスロード・パーソナリティ・シリーズ)
河野 哲也
ナカニシヤ出版
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個人と集団のマルチレベル分析
清水裕士
ナカニシヤ出版
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できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか (KS科学一般書)

  

 

新しい霊長類学―人を深く知るための100問100答 (ブルーバックス)

 

 

その他に鬼のように古本で買いまくった教育心理学系の本もあるのですが、割愛。

あと、国立大学の附属図書館から廃棄本をダンボール1つ分もらってきたんで、それも結構おもしろそうなんだけど、まあそっちも割愛です。

そろそろ新しい本棚が欲しいなー。

『オプティミストはなぜ成功するか』(マーティン・セリグマン)

オプティミストはなぜ成功するか』 

マーティン・セリグマン 講談社文庫 1994年(リンクはパンローリング 2013年)

 

オプティミストはなぜ成功するか [新装版] (フェニックスシリーズ)
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ぎゃー!

新装版になっとる…!

わたしが持っているのは講談社文庫版、1994年初版。それにはすでに「1991年8月、講談社より刊行されたものです」と書いてあるので、最初に日本語で読めるようになってからすでに25年経っているというのか…。

なんで出版社変わるのかな…?やっぱり、ビジネス書区分だと絶版が早いの?

ところで、わたしの手元にある講談社文庫版は、無意味にかわいいぶたさんが表紙にプリントされています。キュート。

でも、これ、犬の方が著者の栄光を辿れるよね、とか思うよね。

なぜ犬か?

そりゃ、セリグマンが犬に電気流して、「学習性無気力」を発見したからです。 

学習性無力感 - Wikipedia

マーティン・セリグマン - Wikipedia

ちなみに、学習性無力感は英語で「Learned helplessness」。それにひっかけて、この本のタイトルは「Learned Optimism」になっています。

ま、これがこの本の結論であり、主張ですよね。「楽観主義は学習できる!さあ、学習しよう!」

1991年にはすでに日本語で紹介されていたこの本はおそらくその数年前にはセリグマンが英語で原稿を書いていたのでしょうけど、パラパラとめくってみるに、めっちゃ内容が濃い…。エピソードが豊富…。すごいなあ。それから25年以上が経ち、こういうおもしろエピソード、さらに増えてるのかな…とか余計なことばかり考えてしまいます。

ちなみに、セリグマンはポジティブ心理学の創始者とも言われますが、そのおかげで、「世界一研究費を持っている心理学者」とも言われています。(少なくともわたしは大学院のときに先生方がそう言っているのを聞いたことがある。)なんでポジティブ心理学にそんなに研究費がつくのかといえば、気持ちがポジティブになる→健康増進→保険金の支払いが少なく済む…ということで、保険会社から研究費がガンガンついていた、ということらしいです。むしろその保険会社の発想がポジティブだし、風が吹けば桶屋空前のバブル景気、みたいな話ですけれども。

わたしがこの本を読んだのは大学生のときですが、ひさしぶりに手にとってみたら、付箋がいくつかはさんでありました。見てみると、だいたいがABCDE方式についてでした。どんだけ悲観主義を直したかったのでしょうか、大学生のときの自分。ABCDE方式については、他の方がブログにまとめていらっしゃいましたので、リンクを貼っておきます。

ABCDE方式でオプティミストになれる? - ミックス犬 セリの日記

楽観主義万歳!なセリグマンですが、しかしながら、楽観主義じゃない人は死ね!という人間観ではありません。さすがに…ね。じゃあどんな場合には悲観主義でいいのか?という例としてたしかこの本で挙げられていたのは、「原子力発電所の作業員」でした。悲観主義できっちりとミスを防ぐことが大切な職業もこの世にはあるよね、という例です。

楽観主義と悲観主義を組み合わせながらなんとかこの人生を生き抜いていきたいものですね…!

 

ということで、本日のもう一冊は、セリグマンが紹介されている教科書です。コラムでひどい書かれっぷりだったような気がするので、シュールな笑いが好きな人はぜひ。

 

『学習の心理学』

今田寛 培風館 1996年

 

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『赤ちゃんは何を聞いているの?―音楽と聴覚からみた乳幼児の発達』(呉 東進)

『赤ちゃんは何を聞いているの?―音楽と聴覚からみた乳幼児の発達』

呉 東進 北大路書房 2009年

 

赤ちゃんは何を聞いているの?―音楽と聴覚からみた乳幼児の発達
呉 東進
北大路書房
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先日学会で買った本をさっそく読みました。

個人的なことですが、2月に引っ越して以降、なかなか落ち着いて本が読めなかったのですが、なんとか最近は引っ越し前の水準に近い読書量になってきました。

 

『赤ちゃんは何を聞いているの?』ですが、いわゆる「赤ちゃん学」の本みたいでした。内容的には発達系の脳神経科学とか感覚知覚心理学で、大変勉強になりました。

そうそう、「日本赤ちゃん学会」という学会があり、学会誌は「ベビーサイエンス」です。おお、わかりやすい。

日本赤ちゃん学会

 

縦書きの本なので、一般向けなのですが、研究の紹介が平易かつ詳細で、心理学を勉強したことのない人にも読みやすい書き方になっていました。

ただ、論文から結果のグラフなんかも引用していたのですが、Nが記載されていなかったのが残念でした。たとえば、各群6人でやったのか15人でやったのか、あるいは30人でやったのかで、研究の確からしさのレベルは違うわけで、そういうところも読者に判断させてほしいな、と思いました。

 

しかしながら、全体として楽しく読めるし、「その研究は赤ちゃんを育てているときにどんなところで役に立てられるか」という点が具体的に書かれていたのが大変良かったです。

個人的には、音楽療法の神経科学的な説明が読めたので満足でした。音楽を処理する脳の部位が、体の動きの制御をする仕事も兼ねているので、音楽を聞くと赤ちゃんや障害者でもいつもよりスムーズな動きができるよ、という内容です。

音楽療法って心理療法に近いけど心理学の学科で学ぶ機会がなかったので、エセ療法じゃないないの?って大いなる偏見を持っていたのですが、考えを改めることができました。その節は大変に申し訳ございませんでした。

ちなみに、音楽療法士はピアノ試験があるので、そりゃあ心理学のほうではなかなか教えないよね…と思いました。

日本音楽療法学会:公式サイト

 

『皮膚感覚の不思議』と併せて読むと、赤ちゃんと関わる際に有効な感覚知覚の知識が総合的に身につけられそうだと思いました。

 

『皮膚感覚の不思議』

山口創 講談社ブルーバックス 2006年

 

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