私家版・心理学の本棚

じょー、本を読んでいろいろ書くことを決意。

『子どもとお金: おこづかいの文化発達心理学』(高橋登 他)

『子どもとお金: おこづかいの文化発達心理学

高橋登・山本登志哉(編著) 東京大学出版会 2016年 

子どもとお金: おこづかいの文化発達心理学

子どもとお金: おこづかいの文化発達心理学

 

  

編著者の名前の上昇志向がすごいですね。

それはさておき、おひさしぶりです、じょーです。子どもを産んだり、育てたり、産後うつ気味になったり、職場復帰したり、ふらふらと暮らしております。元気は元気です。

なかなか本が読めないのがやはり悩みではありますが、逆に考えれば、いままで本をたくさん読んだので、いまは少し読むほうは抑え気味でも、アクティブラーニング的な学びにはなっているような気がします。いままで読んだ本で得た知識を、目の前で起こる子育てのあれこれにあてはめながら、「あれはこういうことだったのか~」と実感する日々です。やっぱピアジェ、すごいな、とか、心理学者の兼業で親業を営む人なら一度は通る道なのでしょうが、それにしたって、やっぱピアジェすごいなあ。

 

今回紹介するのは『子どもとお金』です。出たときに買って(高かった…)、積んでおいたんですけど、出産と育休と職場復帰の流れの中で、「研究に役立つことも少しはしているんだ」という気持ちがほしくてとうとう開いたという次第です。

日本・韓国・中国・ベトナムで、子どものおこづかいと親子関係などについて調査した研究のまとめ本です。もともとは科研みたいです。

kaken.nii.ac.jp

 

お金は経済的な道具であるだけでなく、文化的な道具であると考え、子どもはおこづかいでいろいろ買ったり、買ったものを友達に分け与えたりしながら、お金をどう使いこなせばいいのか学んでいくんだということを、データを示しながら論じています。そして、「こういうふうに使うのがいいよ」というのは文化的に定まっているので、国が違えば子どもの試行錯誤の中身も違うわけです。(本来的には国が違うからではなくて、共同体が違うから違うのでしょうが、ここは簡単な記述で勘弁してください。)

子ども観、大人観も国によって違うわけですが、「お金と人間関係観」も国によって違います。対象4ヶ国の中では、「絶対割り勘の日本」と「おごりあうべき韓国」が対照的に示されていました。割り勘の国・日本では、親も子どもに「お友達と遊ぶときには、自分の分は自分で払いなさい」と言うし、おごりの国・韓国では、親は子どもに「お友達とかわりばんこにおごるんだから、自分の番になる前に、お金あげるから、言いなさいね」と言うわけです。どちらが正しいとかではなくて、それぞれに適応すべき場面があり、それを目指していろいろな調整があるということでしょう。

この本は結構豪華で、研究プロセスにおいてTEM(複線径路・等至性モデル)がうまれていたり、そもそも科研の額も結構リッチだったり、各国の詳細についての章はそれぞれの研究者が書いていたり、といった具合で、読んでいてお得感がありました。なお、各国の詳細の章は、比べながら読むとおもしろいです。中身ではなく、筆致を比べてください。心理学の発展度合いが国によって違うので、「研究は国力を反映している」ということがよくわかります。 

複線径路等至性アプローチ

TEMでわかる人生の径路 質的研究の新展開

TEMでわかる人生の径路 質的研究の新展開

 

 あと、子どものおこづかいについての説明を読む際に、観光客的な悦びがありました。子どものおこづかいの使い道って、どこの国でも食べ物がメインなので、「ご当地おやつ」の説明が何回か入っていたんですね。「子どもがおやつに食べるようなもの」って、どの国にもあるんですねえ。かわいらしくてほっこりしました。

私の指導教員は、「博論は星座のように楽しんで読むもの」と言っていましたが、この本のような大型プロジェクトのまとめ本も同じかもしれません。重箱の隅的視点は捨て、全体を眺めながら学びを得る態度で臨むとよいと思います。「子どもとお金」と「文化発達心理学」というキーワードはありつつも、著者ごとに気になった点、目についた点は違うので、そのへんも味わいながら読み進めるとより楽しめます。

高いけど、おすすめです。

 

文化と子育てといえば、こちらもおすすめです。

『こんなにちがう!世界の子育て』

メイリン・ホプグッド(著) 野口深雪(訳) 中央公論新社 2014年

 

psychologicalbookshelf.hatenablog.com