私家版・心理学の本棚

じょー、本を読んでいろいろ書くことを決意。

『対人援助と心のケアに活かす心理学』(鈴木伸一・編著)

『対人援助と心のケアに活かす心理学』

鈴木伸一(編著) 有斐閣 2017年

 

 

対人援助をしている人向けに話すことになったので、買ってみました。

対人援助のことがたくさん書いてあるのかと思いきや、「対人援助の仕事をする人が心理学を勉強するときに必要な内容を、対人援助の仕事をする人がすっと理解しやすいように書いてある本」でした。

買った目的とはずれているものの、大学の心理学の教科書の「ホラホラ、心理学だぞ、がんばって勉強しろよ」という圧の強い感じとは違い、学習者のために編集したのだなということがよくわかり、勉強になりました。章立てを見たところ、普通の心理学の教科書に入っている内容はカバーされているようでした。

エピソード、コラム、チェックなどの欄を設けて、内容を理解しやすいように工夫されています。

公認心理師や看護師を目指す人の教科書によさそうです。

 

教科書らしい教科書といえば、こちらなんかもありますけどね。

私は、これはこれで好きです。

psychologicalbookshelf.hatenablog.com

 

 ちなみに、新版が出ましたよ。

心理学 新版 (New Liberal Arts Selection)

心理学 新版 (New Liberal Arts Selection)

 

 

最近ではこちらの教科書も売れているようです。 

 

大学が始まらなくてお困りの心理学徒へ(3):アイデンティティの論文を紹介

前回に引き続き、卒論ネタ集です。

第3回は、「アイデンティティ」について紹介していきます。

「自我同一性」とも言いますね。

 

前回までの記事はこちら。

大学が始まらなくてお困りの心理学徒へ(1):不安の論文を紹介 - 私家版・心理学の本棚

大学が始まらなくてお困りの心理学徒へ(2):就職活動の論文を紹介 - 私家版・心理学の本棚

 

(1)尺度翻訳の試み

Rasmussenの自我同一性尺度の日本語版の検討

おそらく、CiNii経由で読めるアイデンティティ系の測定研究の最古のものです。

 

(2)自我同一性の感覚の構造

青年期における同一性の感覚の構造

有名なMEISですね。

使用には許可が必要です。詳細は次のリンクでご確認ください。

http://www2.kobe-u.ac.jp/~ftani/Scale.html

ちなみに、谷先生すごくてですね、バンドもやっているそうです。CDも出たらしい。つよい。次のリンクから、お顔を見ることができます。

http://www2.kobe-u.ac.jp/~ftani/

 

(3)アイデンティティ・スタイルを測定

日本語版アイデンティティ・スタイル尺度の妥当性の検討 - 広島大学 学術情報リポジトリ

アイデンティティ・スタイルを把握しよう、ということです。類型的に把握できるのも、アイデンティティ理論のおもしろさですからね。

 

(4)「個」と「関係性」からアイデンティティをとらえる

アイデンティティの発達をとらえる際の「個」と「関係性」の概念の検討 : 「個」尺度と「関係性」尺度作成の試み

「自分は自分だ」みたいな個のアイデンティティだけではなくて、人との関係で自分を定義するようなアイデンティティにも目を向けよう、という研究。

 

(5)自我同一性の危機

トップページ - 立正大学学術機関リポジトリ

危機も尺度にしてみようという試み。

あたし、自我同一性の危機!こっちはネコのジジ!

 

(6)ジェンダーアイデンティティ尺度

ジェンダー・アイデンティティ尺度の作成

アイデンティティの中でも、性別の同一性に焦点を当てたもの。

 

(7)モンゴルの人のアイデンティティ

UTokyo Repository - 東京大学学術機関リポジトリ

モンゴルの人のアイデンティティ。日本語で読めるなんてありがたいですね。

 

(8)アイデンティティと進路選択

進路選択における親子間コミュニケーションと大学生のアイデンティティ形成および親子関係認知の関連 - 九大コレクション | 九州大学附属図書館

ありそうである研究。進路選択はアイデンティティの要素の1つですし、こういう研究もあるわけです。

 

(9)恋愛関係とアイデンティティ

大学生及びその恋人のアイデンティティと"恋愛関係の影響"との関連

ま、あるよね。読んで傷つかない自信がある人だけクリック!

 

大学生の悩みって、おおざっぱに言ってしまえば、だいたいアイデンティティ関連。

基本のキなので、ここから卒論ネタにつなげていくのもいいかもしれませんね。

 

アイデンティティとライフサイクル

アイデンティティとライフサイクル

 

 

 

アイデンティティ研究ハンドブック

アイデンティティ研究ハンドブック

  • 発売日: 2014/04/01
  • メディア: 単行本
 

 

大学が始まらなくてお困りの心理学徒へ(2):就職活動の論文を紹介

前回に引き続き、卒論ネタ集です。

第2回は、「就職活動」について紹介していきます。

 

前回の記事はこちら。

psychologicalbookshelf.hatenablog.com

 

(1)就職活動不安の影響

大学生の就職活動不安が就職活動に及ぼす影響──コーピングに注目して──

不安があると就活が進まないのかどうか。

 

(2)就職活動と首尾一貫感覚

首尾一貫感覚が就職活動に伴うストレスおよび成長感に及ぼす影響

ブレてないぞ、という感じがあると就活いいんでは?という論文でしょうか。

 

(3)就職活動とその後の不安

就職活動中の情報探索行動および入社前研修が内定獲得後の就職不安低減に及ぼす効果

こちらは、会社が始まってからの不安低減効果について。たしかに、就職活動って仕事に就くためにしてるわけなので、就活中の行動と仕事始まってからのことの関連は気になるところです。

 

(4)就職活動の維持

大学生の就職活動維持過程尺度の作成

就活って長いので、プロセスとしてとらえようということですね。

 

(5)就職活動と自己効力感

大学生の就職活動および自己効力の縦断的研究

自己効力感。できると思ってればできるのか?!

 

(6)希望通りでない就職

希望通りでない就職決定までの将来像変容プロセスの質的検討

うっ…。でも、希望が叶うのだけがいいわけでもないし。叶わなかったときにどうするのか、どう考えるのかが人生ですものね。

 

(7)就職活動とイラショナルビリーフ

イラショナルビリーフが就職活動中のストレス反応および就職活動の遂行に与える影響

不合理な信念。関連ありそう。

 

以上、今回は、卒論に役立てるのもヨシ、就活に役立てるのもヨシ、という感じのテーマでした。

グッドラック!

 

  

サーバントリーダーシップ

サーバントリーダーシップ

 

  

発達障害のある人の就活成功バイブル (経営者新書)
 

 

 

大学が始まらなくてお困りの心理学徒へ(1):不安の論文を紹介

新型コロナウイルスの影響で、大都市圏を中心に、大学の新学期の開始が遅れたりしています。2020年度、波乱の幕開けです。

しかし、3,4年生ともなると、卒論とか心配になってきますよね…。

というわけで、このブログではしばらく、「卒論のネタさがしに役立ちそうな論文や本」を紹介していきます。

なお、私は紹介したものすべてを読んでいるわけではありませんのであしからず。

ここで紹介したものから興味を発展させて、自宅待機中の学習時間を有意義に活用してもらえればいかなと思います。

 

ということで、第1回は「不安」をテーマに紹介します。

やっぱり、新型コロナウイルスで、自分も周りも社会全体も、程度の差はあれ、不安になっていますよね。そのへんから興味をたぐっていくのもありかと思いまして、第1回は「不安」にしてみました。

 

 

(1)新版STAI 状態ー特性不安検査

http://www.saccess55.co.jp/kobetu/detail/stai_s.html

売ってる検査です。有名。不安を、「状態」と「特性」に分けてそれぞれ測定します。

一般的な不安を測るのに適していると思われます。

 

ここからは、いろんな不安を紹介。

 

(2)大学生活不安

大学生活不安尺度の作成および信頼性・妥当性の検討

大学生活が不安。大学生には実感があるかもしれません。

 

(3)数学不安

数学不安尺度 (MARS) に関する研究

私は心あたりがあります…。

 

(4)職業選択不安

つくばリポジトリ

卒論が心配な人なら、こちらも不安かもしれませんね。

 

(5)育児不安

育児不安・育児ストレスの測定尺度開発に関する文献検討(1983年~2007年): 沖縄地域学リポジトリ

子育てが不安。レビュー論文です。

 

(6)異性不安

UTokyo Repository - 東京大学学術機関リポジトリ

異性が不安。レビュー論文です。

 

(7)英語スピーキング不安

http://id.nii.ac.jp/1413/00002671/

なんとなくわかりますね…。

 

(8)競技不安

スポーツにおける競技特性不安尺度(TAIS)の信頼性と妥当性 - 九大コレクション | 九州大学附属図書館

試合のときとかに不安になる。スポーツのことはわかりませんが、ありそうですね。

 

他にもいろいろあると思うので、探してみてね!

推し不安を見つけてみるのもおもしろいよ!

 

正しく知る不安障害 ~不安を理解し怖れを手放す~ (ぐっと身近に人がわかる)
 

  

孤独と不安のレッスン (だいわ文庫)

孤独と不安のレッスン (だいわ文庫)

  • 作者:鴻上 尚史
  • 発売日: 2011/02/09
  • メディア: 文庫
 

  

 

『教育評価との付き合い方――これからの教師のために』(関田一彦・仲道雅輝)

『教育評価との付き合い方――これからの教師のために』

関田一彦・仲道雅輝(著) さくら社 2016年

教育評価との付き合い方 ――これからの教師のために

教育評価との付き合い方 ――これからの教師のために

  • 作者: 関田一彦,渡辺貴裕,仲道雅輝
  • 出版社/メーカー: さくら社
  • 発売日: 2016/02/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • この商品を含むブログを見る
 

 

教育評価の本です。いわゆる、「成績」や「成績つけ」のことについての本。

最近話題の「ルーブリック」について載っていたので買いました。

こちらで目次が見れます。

http://www.sakura-sha.jp/book/jyugyo/kyouiuhyouka-tsukiaikata/

 

教育測定は心理学だけど、教育評価は教育学だなと思いましたね。「どう測るのか」は心理学だけど、「測ってどう働きかけるのか」になったら教育学ですよね。

後者は、正確に測ってフィードバックした結果、学習者がやる気をなくしたら意味ないじゃん、と考えるわけです。それで、学び方がインタラクティブになってきたことと相まって、教育評価もインタラクティブになってきた、と。

内容は充実しているのですが、「社会は変化している。その社会から教育へ新たな要請があった場合、教育はその要請に応えるべきである」という姿勢が一貫して感じられ、もやもやと嫌な感じがしました。

社会が間違っていることもあるんじゃないの。あるいは、社会のための教育じゃなくて、教育のための社会のほうがあってしかるべきかもしれないし。そのほうが暮らしやすい可能性だってあるわけで。

なんて屁理屈を丹田のあたりで捏ねながら読みました。

でもまあ、勉強になった。

自分も親になって、いずれは子どもが教育という公的サービスを受ける日もくるわけなので、教育という営みのフレームやテクニックを知っておくことは大事だと思いますし。 

次はこっちを読みたいです。購入済みです。

 

『測りすぎ――なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?』

ジェリー・Z・ミュラー(著) 松本裕(訳) みすず書房 2019年 

測りすぎ――なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?

測りすぎ――なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?

 

 

『ウィニコットとの対話』(ブレット・カー)

ウィニコットとの対話』

ブレット・カー(著) 妙木 浩之・津野 千文 (翻訳) 

ウィニコットとの対話

ウィニコットとの対話

 

 

おひさしぶりです。

子どもも生まれたし、心理学の勉強がはかどるはずだ、と思っているときに見かけて買ったのが、『ウィニコットとの対話』。

ウィニコット精神分析の実践家、理論家なわけですが、大学のときに授業でなんとなく聞いて以降、いまいち丁寧に勉強するチャンスがなかったのですよね。しかし、「good enough mother」とか、子育て中に知っておいたらよさそうな用語もウィニコットはたくさん作っているわけで、これは、いまでしょ、となりました。

4000円(+税)。チーン。

保育料とかでスッカラカンの財布から出しましたよ。

構成がすごく変わっている本で、死んでしまったウィニコットを、あの世から呼び出して対話します。対話の相手は著者であるブレット・カー。イギリスの、こちらも精神分析家だそうです。

呼び出して…対話…?やばくね…?日本にそういう新興宗教あるよね…って思っちゃうよね…。

内容はすごく濃厚で、ウィニコットを研究しているブレット・カーが、論文・治療の記録・手紙など、ウィニコットが残したいろいろな文書を研究していて、それでもあえて確認したいこととかを聞いていくスタイルです。

濃厚。とにかく濃厚。

で、読んでる途中で思うわけです、こちらとしては。

「もしかしてこれ、一言一句に引用元の文書があるんじゃないの?」

…あったよね。あとがき読んだらそのように書いてありました。

どこぞの新興宗教の霊言とは違い、ウィニコットのセリフすべてに実際の文書の裏付けがあるという…。つよい…。

こういう地道な研究スタイルって、いまの日本でできるのだろうか、なんて思ってしまいました。執念にも似た研究姿勢。

最後には精神分析ウィニコットの関係者の人物名簿までついていて、勉強になりまくりました。人物録の部分は辞書的にも使えそうです。

内容としては、ウィニコットの私生活も含めて、時間の流れの通りに理論を紹介しています。理論だけでなく、意図も含めて説明してくれるので、わかりやすかったです。戦争中の子どもに接していて思いついたアイディアなんだな、とか、たくさんの患者さんに次々会う中で考えたアイディアなんだな、とか、背景を知ると納得度が高いです。

メラニー・クラインとの関係も詳細に説明されています。

ウィニコットについてのあらましはこちら。

ドナルド・ウィニコット - Wikipedia

臨床心理学を勉強している人、子育てをしているかつての心理学徒などにおすすめです。

 

私は今度、こちらにもチャレンジしてみたいと思います。

精神分析、キテる!(自分的に。)

 

 『ベイシック・フロイト

カーン(著) 妙木 浩之 (監修)

ベイシック・フロイト―21世紀に活かす精神分析の思考

ベイシック・フロイト―21世紀に活かす精神分析の思考

 

 

 

『子どもとお金: おこづかいの文化発達心理学』(高橋登 他)

『子どもとお金: おこづかいの文化発達心理学

高橋登・山本登志哉(編著) 東京大学出版会 2016年 

子どもとお金: おこづかいの文化発達心理学

子どもとお金: おこづかいの文化発達心理学

 

  

編著者の名前の上昇志向がすごいですね。

それはさておき、おひさしぶりです、じょーです。子どもを産んだり、育てたり、産後うつ気味になったり、職場復帰したり、ふらふらと暮らしております。元気は元気です。

なかなか本が読めないのがやはり悩みではありますが、逆に考えれば、いままで本をたくさん読んだので、いまは少し読むほうは抑え気味でも、アクティブラーニング的な学びにはなっているような気がします。いままで読んだ本で得た知識を、目の前で起こる子育てのあれこれにあてはめながら、「あれはこういうことだったのか~」と実感する日々です。やっぱピアジェ、すごいな、とか、心理学者の兼業で親業を営む人なら一度は通る道なのでしょうが、それにしたって、やっぱピアジェすごいなあ。

 

今回紹介するのは『子どもとお金』です。出たときに買って(高かった…)、積んでおいたんですけど、出産と育休と職場復帰の流れの中で、「研究に役立つことも少しはしているんだ」という気持ちがほしくてとうとう開いたという次第です。

日本・韓国・中国・ベトナムで、子どものおこづかいと親子関係などについて調査した研究のまとめ本です。もともとは科研みたいです。

kaken.nii.ac.jp

 

お金は経済的な道具であるだけでなく、文化的な道具であると考え、子どもはおこづかいでいろいろ買ったり、買ったものを友達に分け与えたりしながら、お金をどう使いこなせばいいのか学んでいくんだということを、データを示しながら論じています。そして、「こういうふうに使うのがいいよ」というのは文化的に定まっているので、国が違えば子どもの試行錯誤の中身も違うわけです。(本来的には国が違うからではなくて、共同体が違うから違うのでしょうが、ここは簡単な記述で勘弁してください。)

子ども観、大人観も国によって違うわけですが、「お金と人間関係観」も国によって違います。対象4ヶ国の中では、「絶対割り勘の日本」と「おごりあうべき韓国」が対照的に示されていました。割り勘の国・日本では、親も子どもに「お友達と遊ぶときには、自分の分は自分で払いなさい」と言うし、おごりの国・韓国では、親は子どもに「お友達とかわりばんこにおごるんだから、自分の番になる前に、お金あげるから、言いなさいね」と言うわけです。どちらが正しいとかではなくて、それぞれに適応すべき場面があり、それを目指していろいろな調整があるということでしょう。

この本は結構豪華で、研究プロセスにおいてTEM(複線径路・等至性モデル)がうまれていたり、そもそも科研の額も結構リッチだったり、各国の詳細についての章はそれぞれの研究者が書いていたり、といった具合で、読んでいてお得感がありました。なお、各国の詳細の章は、比べながら読むとおもしろいです。中身ではなく、筆致を比べてください。心理学の発展度合いが国によって違うので、「研究は国力を反映している」ということがよくわかります。 

複線径路等至性アプローチ

TEMでわかる人生の径路 質的研究の新展開

TEMでわかる人生の径路 質的研究の新展開

 

 あと、子どものおこづかいについての説明を読む際に、観光客的な悦びがありました。子どものおこづかいの使い道って、どこの国でも食べ物がメインなので、「ご当地おやつ」の説明が何回か入っていたんですね。「子どもがおやつに食べるようなもの」って、どの国にもあるんですねえ。かわいらしくてほっこりしました。

私の指導教員は、「博論は星座のように楽しんで読むもの」と言っていましたが、この本のような大型プロジェクトのまとめ本も同じかもしれません。重箱の隅的視点は捨て、全体を眺めながら学びを得る態度で臨むとよいと思います。「子どもとお金」と「文化発達心理学」というキーワードはありつつも、著者ごとに気になった点、目についた点は違うので、そのへんも味わいながら読み進めるとより楽しめます。

高いけど、おすすめです。

 

文化と子育てといえば、こちらもおすすめです。

『こんなにちがう!世界の子育て』

メイリン・ホプグッド(著) 野口深雪(訳) 中央公論新社 2014年

 

psychologicalbookshelf.hatenablog.com