『大人になることのむずかしさ 青年期の問題〔新装版〕』
河合隼雄先生といえば、臨床心理学の大変立派な先生です。
河合先生といえば、当然、臨床心理学の専門家なわけですが、河合先生の本を読んでいると、青年期を対象にした事例がとても多いです。おそらく、日本では、他の領域と比べて、学校領域で心理臨床活動が取り入れられるのが早かったことに起因するものと個人的には推測していますが。
河合先生の本は、結構難しいのから、ちょっとした読み物まで幅広いですが、『大人になることのむずかしさ 青年期の問題〔新装版〕』は、どちらかというと「ちょっとした読み物」寄りかと思います。心理学を学んだことのない人が読んでもわかるような言葉遣いで書いてあります。読者としては、青年期の子を持つ親が想定されているのではないでしょうか。
先に、「ちょっとした読み物寄り」と書きましたが、一方で、心理学的な見方はふんだんに盛り込まれています。親子関係に行き詰まりを感じている人が読めば、新しい見方を得られるのではないでしょうか。
わたしは、河合先生の、「問題」に対する考え方がとても好きです。
河合先生は、「問題児」というのは、「周囲の大人に問題(クエスチョン)を出しているのだ」というようなことをいろいろな本で書いています。大人になってから子どもに接すると、問題児は、問題のある子、その子が悪いのだ、と思ってしまいがちです。しかし、問題児は何もないところに生じているわけではなく、むしろ、周囲の大人との相互作用に問題が生じているためにそうなっている、そう、変化すべきは周囲の大人でしょう、というようなことを、河合先生の本は、大人に対してじわじわと説得しにかかってくる気がします。
そのため、『大人になることのむずかしさ 青年期の問題〔新装版〕』を読むと、青年の問題についての理解が深まった!という感想は案外抱かず、むしろ、大人であることとはどういうことであるのか、自分自身に問わなければならないな、という気持ちになると思います。
一体、大人って、なんでしょうね。
なお、『大人になることのむずかしさ 青年期の問題〔新装版〕』では、時代の変化に左右されない、普遍的な青年像が想定されていると思いますが、時代の変化が青年にどのような影響を与えているのか、網羅的に知りたい人には、『よくわかる青年心理学 第2版』(白井利明・編)がおすすめです。
『よくわかる青年心理学 第2版』
白井利明・編 ミネルヴァ書房 2015年