『孤独な心:淋しい孤独感から明るい孤独感へ』
落合良行 サイエンス社 1999年
超簡単に言うと、これの解説本。
見覚えありますか?もう何回も紹介してるからね、ありますよね、きっと。
ちなみに、この見た目は、風間書房のテンプレです。風間書房は、博士論文を出版してくれるありがたい出版社です。わたしの周りの博士たちで出版までいってる人は大体風間。逆に、風間じゃないと、「すげー」って感じ。
つまり、風間以外>風間>出版断念、という構造です。
わたし?もちろん、現在のところ出版断念です。
それはそれとして、です。
落合先生はこんな人です。
見てわかる通り、孤独感の研究者です。
わたしは、『青年期における孤独感の構造』を先に読みました。博士前期課程の1年生のときでした。
そのあと、博士号をとってから、『孤独な心』を読みました。
当然ながら、博論自体と博論の解説本では後者の方が読みやすいのですが、博論→解説本の順で読んだのは、自分にとってはよかったかな、と思います。たとえば、歴史的建造物を見てから、それにまつわる歴史の本を読むとか、そういうのに近い体験でした。
また、自分の博論が済んでからなので、純粋に自分に引きつけて読むという、読書の悦びみたいなものもありました。読書の悦び、博論に取り組んでいるときは全然なかったです。
脱線になりますが、最近、心理学の本を読むのが楽しいです。純粋に楽しい。大学のときに、いろいろな領域の臨床の本をざらっと読んでいった時期があるのですが、それに近い悦びを得ていると思います。しかし、大学のときからほぼ10年経って、読めるもののレベルは上がっていますので、その分悦びも複雑化しているようなところもあります。
戻そう。
『孤独な心』は、孤独感について研究しまくった人が書いた、一般向けの本です。
落合先生自体は青年心理学の先生ですが、この本では孤独感の生涯発達、つまり、寂しいという気持ちの子どもの時期から老人の時期までの変化も扱われています。
業界人なら知っている、落合先生のA型~D型。
副題にある通り、「寂しい」の孤独感から、「一人でいても充実している」孤独感へ変化していきます。
その間には、一人ひとり、ドラマがあるとは思わないかい?
思うよね~。
(駆け巡るつらい記憶)
でもこうして、わたしもなんとか生きていて、どうにかこうにかアラサーになっています。
この、「一度ほんとうにしんどい時期を経て、しなやかで健康的な大人へ」みたいな考え方が、わたしは結構好きです。このへん、臨床心理学の本では、しんどさの軽減が至上命題のような雰囲気があるからです。
まあ、青年心理学者なんて、本人が死にたがりなので、孤独感で失敗して死んだ人がいたとしたって、ほうほうそうかそうか、しんでしまったのか、くらいなのかもしれません。
実際、落合先生は、孤独感についてより知るために、死ぬのを延期して博士課程に踏み入ったとこの本には書いてありました。
すごいなあ。
わたしなんて、博士課程を出た後に、職がない現実を目の当たりにして、死にたい気持ちですからね。
それはそれとして、『孤独な心』は、先ほどのエピソードのように、落合先生が、どういう個人的な理由を持って、どのような順番で、研究を行っていったのかがわかります。そのため、研究人生の事例としても読むことができます。
孤独感自体は、生涯持ち続ける感情です。特にこれからは、老人人口の増加もあります。老人の世話には、難しい構造があります。それは、自分が体験したことのない発達段階の人を慮る必要のあることです。子どもの世話なら、誰もが一度は子どもだったのですから、ある程度想像がつくことも多いのですが、老人ではそうはいきません。青年期の孤独感と老年期の孤独感が違うということは、世話する人が、「このじいちゃんはさびしそうだな」と想像しているものが、はずれている可能性があるということです。
そういったことを考えると、孤独感というのは再度重要なテーマになってくるのではないでしょうか。
自分が寂しい人にも、寂しい人の近くにいる人にも、オススメです。
事例も入っているので、青年期の臨床を担当している人にも、いいかもしれません。
なお、青年期についてもっと詳しく知りたい人には、こちらなんかはどうでしょうかね。
『高校生の心理〈1〉広がる世界』
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