私家版・心理学の本棚

じょー、本を読んでいろいろ書くことを決意。

『トドラーの心理学 1・2・3歳児の情緒的体験と親子関係の関係性援助を考える』(アリシア・F・リバーマン)

トドラーの心理学 1・2・3歳児の情緒的体験と親子関係の関係性援助を考える』

アリシア・F・リバーマン・著 福村出版 2021年

 

 

♪ちゃらっちゃちゃっちゃ~,ちゃらっちゃちゃっちゃ~,ちゃらっちゃちゃっちゃ~,ちゃーちゃちゃーちゃちゃ~

読んだ?読んだよね?(デュデュンッ) (cf.オフロスキー from 「みいつけた」)

 

そう,私もすっかり親です。

トドラーなんか育てちゃって。

オムツ替えを嫌がってオムツを親に投げつける子を育てちゃって。

すっかり親。

 

いやー,もっと早く読んでおくべきでしたね,『トドラーの心理学』。

もうトドラー,1人しか家に残ってないやんけ。

残りはどうなったかって?「幼児期後期」になりましたね,すっかり。

そう,『子どもの遊びを考える:「いいこと思いついた!」から見えてくること』(佐伯胖・編著)の対象に近い感じに仕上がっております。

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トドラーとは,「乳幼児」から「乳児」を抜いた概念です。1歳から3歳。歩けるようになったばかりの幼児のことです。てちてち歩く人たちのことですね。

親にむかってなんだそのかわいいモンキーパンツは!

って感じの時期です。

 

350ページありましたよ,この本。トドラーが家にいたら読めないことが最大の欠点です。

でも,内容面では最高に勉強になりました。トドラーの情緒的成長に親は大きな役割を担っていることを明確に論じ上げています。

とはいえ,親にもやさしい。親が忙しいこと,親も余裕がなくて正しくない対応をしてしまうことも著者は許容しています。そのあと子どもに事情を説明して謝れとも促していますけれども。

決して,「親がすべてのリソースを尽くして子育てにあたらねばならない」と思っていないのですよね,この著者は。その視線が温かく,専門家であり当事者である私に染み渡るのでした。

なお,著者であるアリシア・F・リバーマンは,ストレンジ・シチュエーション法のメアリー・エインスワースのところで院生をやったとのことでした。なるほど,まごうことなき愛着の専門家でございます。

その著者が,自身の臨床経験,子育て経験,孫育て経験まで含めて書いた渾身の書である本書が350ページにもなっちゃうのはいたしかたないことなのかもしれません。でも,事例や具体的な対応策がたくさん載っていて,さくさく読める部分も多かったです。日米の文化差ゆえにすべて日本で実践できるわけではないと思いますが,大きな方針は参考になることばかりです。

トドラーを育てている人,これからトドラーを育てる人には参考書として,トドラーを育て終わっちゃった人には恐怖の自己採点表として,スリルのある読書になることと思います。

正直,最近読んだ本の中で一番おもしろかったかも…。

とにかく勉強になることばかりでした。

なお,この本の訳出は初とのことですが,原著は2nd Editionです。あー,最初の子どものときにあったらよかったのに!

これからこの本を読んでトドラーに接することのできる人は幸運ですよ,ほんと。

 

そういえば,1人目を産む前は,こんな本も読みましたね。

これもおもしろかったです。

『こんなにちがう!世界の子育て』

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『子どもの遊びを考える:「いいこと思いついた!」から見えてくること』(佐伯胖・編著)

『子どもの遊びを考える:「いいこと思いついた!」から見えてくること』

佐伯胖・編著 北大路書房 2023年

 

2023年度の日本心理学会の大会の際に購入しました。

北大路書房の方に,「子どもが小さいんで,いましか読めない感じの本があると勉強になるんですけど~」と言ったらオススメしてくれたんですよね。

なんと,修論。佐伯先生のところの修論生の修論が力作なので,本にして,でもちょっと分量が足りないので,評論を複数の先生から書いてもらって編著で出しました,という構成です。

しばらく前に社会学や哲学の領域で「中動態」が流行ったのに乗り遅れていたのですが,この本は子どもの遊びを中動態の考え方で考察したものです。ちなみに,縦書き。

内容面には納得でした。これの元が修論って…。おそろしい子…と思いましたが,修論の著者のほうは一般企業に就職されております。それもまたヨシ。

本書を読んで,子育てや幼児教育という営みは,もっと共同体的・関係論的な用語で語られ,実践されていくべきだと感じました。とはいえ,それは幼児教育のみで達成されることではないだろうな,とも思います。なぜなら,高校受験以降の子どもたちは能力主義(本書では関係論の対概念となります)で個別の能力を問われていくからです。高校受験や大学受験が団体戦的になれば,関係論的なままみんなで能力を伸ばして進学していくことも可能かもしれませんが,やや夢物語的です。なので,幼児教育では関係論的な実践が望ましく,また実践可能である一方で,義務教育以降と接続が悪いという現状は,単純に心が痛むなあと思いました。

また,蛇足になりますが,「子どもはよく棒を拾う」みたいなことが評論のほうであえて活字になっていたのもおもしろかったです。今度から,子どもがよく棒を拾うことに根拠が欲しいときに引用元としたいと思います。

「いいこと思いついた!」期の子どもと暮らし,なかなか読書の時間もとれず,自分が「いいこと思いついた!」になるのが難しいライフサイクルの特定の段階にあるわけですが,なんとか今年も1ページでも多く読んでいけたらと思っています。

 

そして,いまは「いいこと思いついた!」より年齢を下げ,よちよち歩きの子どもについての本を読んでいます。こちらもかなり勉強になります。読み終わったら紹介しますね。

トドラーの心理学』

アリシア・F・リバーマン 福村出版 2021年

 

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『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』(針生悦子)

『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』

針生悦子・著 中央公論新社 2019年

 

 

腰を据えて何かをする時間はないが勉強をしたいときには,新書ですね,やはり。

『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』,まさにタイトル通りの本でした。

発達心理学の教科書には,「1歳ごろになると”ママ”や”パパ”などの初語が見られ,2歳ごろになると”ワンワン イル”などの二語文が見られるようになります」というようなことが書いてありますね。

なんでだ?

ということをちゃんと学んだことがなかったので,この本を読みました。

結論としては,赤ちゃんは生まれた直後からわけわからん言語の話されている意味不明な環境に身を置いてリスニングを鍛えまくり,かつミルクを飲んで体を大きくして口腔内が広くなり,やっとのことで1歳ごろに初語を発するようになる,とのことでした。

しゃべり始める前に1年もただ言葉を聞いて過ごすなんて修行のようだ…。

そう,「赤ちゃんの言語獲得は大人よりスムーズ」なんてことは全然ないんだよ!!!赤ちゃんも(意図的にではないが)超がんばってんの!!!というのがこの本の超大まかな結論です。

各段階の言語発達について,大人と比べた比喩を入れてみたり,実際の観察や実験のデータを豊富に紹介したりと,発達心理学の教科書でさらっと図表になって流れてしまう内容の隙間をきっちり埋めてくれる内容の本でした。こういう本がね,ありがたいんですよ…。心理学を楽しむときに手軽でね,最高。

 

そして,育った子どもはだんだんと会話というダイナミックな言語活動にトライしていくのですよね。

言語の発達,ほんと,ドラマチックです。

 

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『セックスレスの精神医学』(阿部輝夫)

セックスレスの精神医学』

阿部輝夫・著 ちくま新書 2004年

 

2022年から不妊治療が保険適用になりました。

一方で,国際的にみると,日本では現役世代においてセックスが下火です。なんなら,「セックスしないで妊娠できませんか」くらいで不妊治療を始める人たちもいるらしいと聞きます。

「セックスしたくないような相手と子どもを持ちたいか?!」と配偶者とびっくらこいでいたところ,この本をBOOK・OFFで見かけたので買って読んでみました。

2004年の本なので,「セックスレスだけど子どもが欲しい,セックスできるようになんとかできませんか,先生」みたいに精神科を受診してくる人たちを診察しましたよ,という内容です。いまの不妊治療は産婦人科医が診察するタイプですから,この本は,精神科医から見たセックスレス解消経由の不妊治療。それだけでもおもしろいです。

ED(勃起障害)の治療をはじめ,挿入~膣内射精ができるようになるまでに,夫婦のコミュニケーションを含めてこんなふうにしてみましょう,といろいろ紹介されています。事例もあって読みごたえがあります。

ちなみに,著者の先生,まだ現役で患者さんを診ているようです。千葉でクリニックを開いて診療をされているようなのですが,プロフィールと写真が見所です。これまで考案した治療法の名前や方法もおもしろいし,本の著者近影とサイトの写真,たぶん10年,なんなら20年くらい時間差があるのに,顔の特徴が全く変わらなくてすごい。ぜひ本を買って見比べてください。裏表紙に写真があります。

本書で紹介されているセックスレスの解消法は行動療法系なので,本を買って読めば実践できます。なので,セックスレスを解消したい人にはぜひ読んでほしいです。

なお,「セックスレスだけど子どもが欲しいって,何?!」と思っていた私ですが,事例を通してそのような人々の少しわかりました。よい読書でした。

 

『やさしさの精神病理』も精神科の先生の本でしたが,精神科の先生の本の独特のおもしろさってなんなんでしょうね。とってもいいですね。

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『家族と国家は共謀する』(信田さよ子)

『家族と国家は共謀する――サバイバルからレジスタンスへ――』

信田さよ子・著 角川新書 2021年

 

信田さよ子先生のことはネットの記事で知って,心を社会制度の結果と考える視点に大変感銘を受け,本を買って読んでみました。プロフィールからも,本の内容からもわかるように,臨床経験が大変豊富な先生のようです。

『家族と国家は共謀する』から,私は「小難しい」という印象を持ちました。私の読解力では,「共謀する」がどのようなことなのかわからなかったです。

私がこの本から読み取ったのは,「戦争によるPTSDとDVや虐待による複雑性PTSDは相似である。前者は国家から個人への,後者は家族から個人への加害によって生じる」といったところです。PTSD複雑性PTSDについて,歴史を含め,とても勉強になりました。ただ,「共謀」について読み取れず,私の力不足を感じます。

一方で,副題の「サバイバルからレジスタンスへ」の部分に関する内容には納得感があります。被害を受けた人が自分を被害者と自己定義することから回復が始まるという主張は,当たり前ではあるものの,説得的に論じるのは難しいと思いますが,信田先生はすっきりと論じていて見事な筆致だなと思いました。

なお,PTSD複雑性PTSDについては,日本心理学会の『心理学ワールド』の記事が勉強になります。複雑性PTSDはICD-11で登場した新しい概念なので,今後解説書等も増えていくのではないでしょうか。

私は臨床の勉強から遠ざかってしまっているのですが,臨床家の書き手の先生が増えることは大変好ましいことだと思います。信田先生に限らず,臨床家の先生の本も積極的に読んでいきたいです。

 

臨床家の書き手といえば河合隼雄先生の右に出る人はいないですが,いろいろな人がいろいろと言ったり書いたりするのが学術の良さでもありますので,様々な先生に書いてほしいところですね。私に読む時間があるかどうかは…わかりませんが。自分の時間が…ない。

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『子どもという価値』(柏木惠子)

『子どもという価値――少子化時代の女性の心理――』

柏木惠子・著 中公新書 2001年

 

 

2年ぶりの更新ですね。

自分のことをする時間が全くないまま,3人目の子どもを産んでしまいました。もともとなかった自分の時間が戻ってくる気配,ゼロ。読書のほうも捗るわけもなく…。

厳しい環境ですが,なんとか,1ページでも多く読めるようにがんばっていきたいものです。

 

さて,第3子出産の入院中,『子どもという価値』を読みました。

柏木惠子先生はもっと評価されていいと思いますね。

2001年の本なのですが,内容が全然古びていないです。

2022年の出生数が80万人を割ったことで,少子化が加速していることが確定しきったわけですが,この本を読めば,少子化少子化の加速は当然のことだということがわかります。

柏木先生によると,「産んだらほぼ必ず育つ」という,衛生や医療の発達した社会では,女性は「希望の人数ぴったりに産む」ようになります。そうすると,「育てられる程度の人数を決めて,その人数だけ産む」ようになっていきます。その際,社会が親による養育を当然のことと押し付けてくると,「育てられる人数」が減るので,少子化するというわけです。

また,男女ともに寿命が延びているため,親業が終わった後の人生のことも考えなければなりません。とはいえ,子どもが成人してから趣味やボランティアなどを始めるのでは遅いので,ちょっと早めに始めておこうと考えはじめます。そのためには,子育ての終了時期を前倒ししたほうがいいので,ここでも子どもの人数を減らすようにという判断が行われます。

その結果,どこも2人きょうだいばっかりになりましたとさ。あと,女性に押し付けられた役割に辟易して結婚しない人も増えているので,「結婚している人は子どもを2人産み,結婚していない人は当然子どもを持たない」という社会状況により,生まれる子どもはどんどん減っていくんですね。

そうすると,対策は,(1)結婚しがいのある男性を増やして結婚自体を増やす,(2)子育ての際に家庭が背負う負担を軽減する,ということになるのですが,まあそのどちらも放置して2022年まできましたよね,日本。そして輝く出生減!

ということで,副題の「少子化時代の女性の心理」というのは,「女性の心理が少子化を進めているので,女性が結婚したい,子どもを持ちたい,3人以上持ちたいと思えるような対策をしないといけませんよ」という意味があったのかなと思います。

20年経っても古びない『子どもという価値』,勉強になるのでお勧めです。

 

柏木先生の『父親になる,父親をする』も前に読んで,とてもよかったです。

紹介していなかった気がするので,またいずれブログに書きたいと思います。

 

 

映画「グレイテスト・ショーマン」

 

 

 

映画「グレイテスト・ショーマン」(2017年)をDVDで借りてきて観ました。

自分の時間なのに、なぜか心理学のことをしてしまう…。

 

グレイテスト・ショーマン」は、バーナムの話です。

バーナム効果」のバーナムですね。社会心理学の教科書のコラムなんかでちょろっと見かけたことがある人は多いのではないでしょうか。占いや性格診断が「あってる!」と感じられる現象ですね。「バーナムという興行師に由来して、バーナム効果と呼ばれている」なんて書かれているかと思います。

バーナム効果 - Wikipedia

その、「バーナムという興行師」が主人公です。

 

観てないですが、「ラ・ラ・ランド」というミュージカル映画の流れらしいので、めちゃくちゃ歌います。それはもう歌います。ずっと歌ってる。

バーナムはサーカスを立ち上げて興行し、お金持ちになるのですが…という話。

社会心理学の教科書には、「バーナムは話術が巧妙で」というようなことが書いてあったように記憶しているのですが、話術が巧妙で観客が喜んでいるシーンはごく一部でした。残念。でも、ビジネスシーンでは話術が巧妙なシーンがいくつかありましたね。そのへんは史実のバーナムからキャラクターを作り上げたのでしょうか。

しかし、もうちょっと事実寄りかと期待していたので、やや拍子抜け…。でも、映画としては満足度が高いですよ。

 

似たような作品として、「愛についてのキンゼイ・レポート」を挙げておきます。

こちらも脚色はかなり入っているのだろうなあと思わされますが、一方で、性についての社会科学の本では、名前はよく見かけます。心理学や心理療法におけるフロイト的な立ち位置、つまり、「最初にその分野を開拓した人」としての地位があるのでしょうね。

 

心理学の人の名前を覚えるのも勉強のうちです。