私家版・心理学の本棚

じょー、本を読んでいろいろ書くことを決意。

『家族と国家は共謀する』(信田さよ子)

『家族と国家は共謀する――サバイバルからレジスタンスへ――』

信田さよ子・著 角川新書 2021年

 

信田さよ子先生のことはネットの記事で知って,心を社会制度の結果と考える視点に大変感銘を受け,本を買って読んでみました。プロフィールからも,本の内容からもわかるように,臨床経験が大変豊富な先生のようです。

『家族と国家は共謀する』から,私は「小難しい」という印象を持ちました。私の読解力では,「共謀する」がどのようなことなのかわからなかったです。

私がこの本から読み取ったのは,「戦争によるPTSDとDVや虐待による複雑性PTSDは相似である。前者は国家から個人への,後者は家族から個人への加害によって生じる」といったところです。PTSD複雑性PTSDについて,歴史を含め,とても勉強になりました。ただ,「共謀」について読み取れず,私の力不足を感じます。

一方で,副題の「サバイバルからレジスタンスへ」の部分に関する内容には納得感があります。被害を受けた人が自分を被害者と自己定義することから回復が始まるという主張は,当たり前ではあるものの,説得的に論じるのは難しいと思いますが,信田先生はすっきりと論じていて見事な筆致だなと思いました。

なお,PTSD複雑性PTSDについては,日本心理学会の『心理学ワールド』の記事が勉強になります。複雑性PTSDはICD-11で登場した新しい概念なので,今後解説書等も増えていくのではないでしょうか。

私は臨床の勉強から遠ざかってしまっているのですが,臨床家の書き手の先生が増えることは大変好ましいことだと思います。信田先生に限らず,臨床家の先生の本も積極的に読んでいきたいです。

 

臨床家の書き手といえば河合隼雄先生の右に出る人はいないですが,いろいろな人がいろいろと言ったり書いたりするのが学術の良さでもありますので,様々な先生に書いてほしいところですね。私に読む時間があるかどうかは…わかりませんが。自分の時間が…ない。

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