私家版・心理学の本棚

じょー、本を読んでいろいろ書くことを決意。

『あいまいな会話はなぜ成立するのか』(時本真吾)

『あいまいな会話はなぜ成立するのか』
時本真吾(著) 岩波書店 2020年

言語心理学ってちゃんと勉強したことがないんですよね。大学のときに認知心理学の授業でちょっと聞いたかなあ…って感じで。
なので,なんでもいいからしっかり読んでみたくて,買ってみました。ちょうど自分の子どもの会話も流暢になってきたところだったので,興味深い読書となりました。
著者は,あれれ?学位が2つある?!
プロフィールに「博士(英語学・心理学)」とあります。博士後期課程も,獨協大学大学院と東京大学大学,と記載されています。
なーんだ,超人か。
現在は,目白大学国語学部で教授をされているようです。
言語活動については,どうも「しゃべるほう」のことばかり私たち素人は注目しがちです。子どもの言葉でも,単語が豊富かとか正しい言い回しになっているかとかを気にします。
でも,言語心理学では,そもそも会話というのは複数の人が協力して行っている活動であるとしており,著者はそれを「聞き手のがんばりも必要」と表現しています。
実際,自分の子どもを見ていると,がんばってくれなさそうな聞き手の前ではいまいちしゃべる気にならないようです。つまり,親・保育園の先生・他の子どもの親などには話しかけたり,質問に応じたりするのですが,公園で出会った小学生のお姉さんとか,年に1度くらいしか会わない遠い親戚のおじさんなんかとはほとんどしゃべりません。
家だとあんなにしゃべるのに…と親としてはあきれるような気持ちになるわけですが,子どもなりに「がんばってくれそうな聞き手」を選んでいるような気がします。妙なことを言って笑われたり,上手に発音できなくて何度も聞き返されたりするのが嫌なのかもしれません。
会話には,聞き手のがんばりも必要。
これを知っただけでも良い読書でした。
あと,この本の後半では脳について扱っています。MRIとか脳波の解説も載っているのですが,すごく上手です。
これは,あれだ,たまにある,「ちょっと読んだ一般向けの本の著者が説明上手でびっくりするほど脳研究の手法が理解できちゃうやつ」。
脳研究の手法の説明って,いろんな本によく出てきます。やはり,最近の心理学では脳の研究の存在感や影響力は無視できないと思います。ですが,一般向けに上手に説明している本というのはなかなか多くはありません。本職の人の説明は難しすぎることが多いし,そうでない人の説明は信憑性が怪しかったりします。
その点,この本の著者の説明はすごくスマートです。ちょうどよい解像度。適切な短さ。ちょっと研究結果のグラフなんかも載っています。出たーっ!野生の説明上手!って思っちゃいました。
言語心理学のはじめての本として,長く読まれてほしいと思います。

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