私家版・心理学の本棚

じょー、本を読んでいろいろ書くことを決意。

『愛を科学で測った男――異端の心理学者ハリー・ハーロウとサル実験の真実――』(デボラ・ブラム)

『愛を科学で測った男――異端の心理学者ハリー・ハーロウとサル実験の真実――』

デボラ・ブラム(著) 藤澤隆史・藤澤玲子(訳) 白揚社 2014年 

 

一般教養の心理学や教職課程の教育心理学の授業など、入門の科目で必ず紹介されるハーロウの実験。針金でできていてミルクのついている母ザルと布でできていてミルクのついていない母ザルのどちらを子ザルが好むかの実験ですね。

表紙は実際の布母ザルです。教科書ではイラストで紹介されていることが多いので、写真で見ると思いのほかグロテスクに感じました。

我が家の2歳児がこの表紙を見て「こわーい」と言っていたのですが、この布母ザル、子ザルが怖がる顔つきにわざと作ってあるんですね。それは教科書で読んだ覚えがないです。この本で初めて知りました。

それでも子ザルは布母ザルが好き。子育てでは肌の触れ合いが大切なんですね。

教科書的にはそれで終わりです。

が、『愛を科学で測った男』は400ページあるわけで、他のこともいっぱい書いてあるんですよね。

布母ザルまでの話、布母ザル以降の話、そしてハーロウのプライベートの話。プライベートと研究上の問題意識がどのように絡み合っていたかなども巧みに描かれています。

そもそも、教科書でこの実験について知ったとき、「子どもがおっぱいのために母親と愛着を形成するという前提がドライすぎでは」と思いませんでしたか?私は思いました。しかし、この本で時代背景を学ぶことによって、その前提がなぜ採用されたのか理解することができます。いまの子育ての常識が、むしろ批判され、さげすまれていた時代があったわけです。そこでこの前提、そしてこの実験。いまの子育ての常識の地ならしをしてくれたのがこの実験と言ってもいいかもしれません。

教科書で紹介されるときは1~3ページくらいですが、文脈ごと理解するとなると400ページにもなるんですね。著者の執念にも驚きです。

ちなみに著者は、動物の権利についての本を書いた関係でハーロウに興味を持って本書の執筆に至ったそうです。女性。夫に家庭を任せて執筆したとあとがきにありました。

人間はいろいろなスタイルで子育てができる。それを著者が実践して見せてくれているところもメタ的に感心しました。

第2子の妊娠後期~新生児期~もうちょっとあとまでの期間にのんびり読んだのですが、赤ちゃんを抱えながらこういう内容の本が読めてよかったです。得難い体験でした。

 

子育て関連で読んでよかった本として、脳内リストに追加決定。他の本はこんな感じ。

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もちろん、心理学の歴史に関する本としても優秀でした。これらに並ぶ立派な本です。

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次は何を読もうかなー。『愛を科学で測った男』で紹介されていたこの本が気になるところではあります。ちょっと古いですが。

『赤ん坊にも理由がある』、タイトルが洒落てますよね。こういうの大好き。