『豊かさの精神病理』
大平県 岩波書店 1990年
『やさしさの精神病理』に続いての読書でした。出版順では、『豊かさの精神病理』→『やさしさの精神病理』みたいです。
『やさしさの精神病理』については先日すでに書きました。
psychologicalbookshelf.hatenablog.com
『豊かさの精神病理』も、すいすい読めるのにチラチラと鋭い考察が入っていて、おもしろかったです。
内容としては、対人関係のあり方が、ヒトとモノの関係に似てきているよ、みたいなことだったと思います。特に、「カタログ的」というのがキーワードとして繰り返し出てきました。他人をモノのように扱う人々が増えてきました、そういう人たちは、対人関係の話をしているときにも、商品カタログのごとく人々の特徴を比較したり並べたり順位をつけたりするんです、という話と、モノは所有者と葛藤を生じえないので、豊かさに毒された人々は対人関係上の葛藤に弱い、という話が印象的でした。
しかしながら、1990年出版、つまりは、バブリ~なときの事例を引いているわけです。どうなんでしょうねえ。バブルの時期の特殊な人々を考察したに過ぎないのではないか、という気もします。
実際、現在では『欲しがらない若者たち』(山岡拓)のように、消費に積極的ではない人々の存在を指摘する本も多く出ています。
しかしながら、バブルを体験した人々はまだ生きているので、そういう人たちのことを理解したいときにはなかなか役に立つかもしれません。わたしなぞはアラサーでして、バブルは知りませんが、世に出れば上司的な年代の人々はバブルに大きな影響を受けた人たちだと思うので、そういう人を理解したいときにはこの本の内容を思い出すことも有益だと思います。
『豊かさの精神病理』と比べると、いま読んでいる『貧困の精神病理』は、普遍性のある現象を考察していると思います。ペルー社会の貧困層の中に入ってその精神構造を整理する内容です。おもしろくってずいずいと読んでしまうのは、著者の筆力ゆえでしょうかね。
『貧困の精神病理―ペルー社会とマチスタ』
大平健 岩波書店 1996年