2016年1月のまとめです。
心理学の本1冊、副読本1冊でした。
・心理学の本
psychologicalbookshelf.hatenablog.com
・副読本
「11月・12月のまとめ」と題していますが、12月は書いてないのでくっつけただけです…。2015年の11月・12月はろくなことがなかった…。
ということで、副読本1冊だけです。
『生理心理学―脳のはたらきから見た心の世界 第2版』
2016年最初の心理学読書がこれでした。
職業上どうしても必要になり読んだのですが、なかなかよかった。ただ、この分野は教科書が少なく、競争によるブラッシュアップが行われていない印象です。そのため、もうちょっとがんばってほしいなあ、というところがぽつぽつありました。
その最大のものが…図解!!!
サイエンス社のこのシリーズは、たしか、右ページが図や表やコラムになっているという構成なのですよね。その、図が、やばい。なんか、四角と矢印だけで神経系の経路とかが説明されれて…もうちょっと…人間の身体器官と同じ配置にしたりとか…してほしいかな…って…。
というわけで、この1冊で学びきれるとは到底言いきれないのですが、かといってファーストチョイスでこの本を上回るものがあるわけでもないので、まずはこれを読むところからはじめよっか…という感じです。
なお、たぶんこの分野の人はここに入っているだろうと思われる学会は日本生理心理学会ですが、ここは論文が無料で読める上、早期公開までしてくれているのでありがたやありがたやという感じです。
そして、学会大会では、「ラジングスター・セッション」という時間があるらしい…。ものすごく…のだめカンタービレ…。
ちなみに、生理心理学の勉強のために一応こちらも買ってはみたのですが、測定の話メインだったからちょっと違うかな、と思い、パラパラめくってそっ閉じでした。
『生理心理学―人間の行動を生理指標で測る』
堀忠雄 培風館 2008年
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『ピネル バイオサイコロジー―脳 心と行動の神経科学』
ジョン・ピネル 西村書店 2005年
個人的に、心の中で、単に「ピネル」と呼んでいます。
「ピネル」は思い出の本なんですよね。大学院の受験勉強のとき、精神科薬の薬理を勉強しなきゃならなくなって、図書館で手にとって「俺が探していたのはお前だよ!!!」って思ったのが初めての出会いで、もうあれから8年くらい経つのか…思えば遠くに来たもんだな…っていう。
しかし、大学の頃は、1冊5000円なんて、高くて買えなかったわけです。なので、誰も借りたそうにはしていなかったのをいいことに、返しては借り、借りては返しして、受験勉強に使っていました。
そ・れ・が!
俺は大人になった!
本は3000円までは、即決現金購入をするようになった!!!
そしてとうとう、熟考3秒の末、Amazonで買った!(でも古本で。)
ということで、8年越しの思いが叶い、晴れてピネルは俺の手元に来たわけです。大歓喜!!!
ピネルはいい本だと思います。説明が丁寧だし、適切な図表が初学者の理解をアシスト&サポート!また、ちょいちょい挟まる事例的コラムもなかなかおもしろみがあり、バイオサイコロジーというつかみどころのない科目を、身近なものに感じさせてくれます。
正直、8年経って、もっと新しく、もっとイケてる教科書を、Amazonさんがサジェストしてくれるのではないかとも思っていたのです。しかし、普通にいまも売っています。2005年に出た本だから、10年戦士ですよ。芸能人なら押しも押されもせぬスターになりかかっている感じです。
スター性を求めている人は、ぜひお手に取ってみてください。
今日のもう一冊はこちら。こちらは熟読しようと思って、最近カバンに入れて歩いています。ピネルと違って軽いので、カバンに入れて持ち歩ける。
『生理心理学―脳のはたらきから見た心の世界』
岩崎純一 幻冬舎 2011年
2016年になってしまいました…。
今年はいい年になってほしいですね…。
さて、去年読んだ本を紹介します。
『私には女性の排卵が見える』です。
インターネットの書評で、興味深い引用をいくつか見たので、読んでみようと思って買いました。
タグに、「作者が精神疾患体験者」をつけましたが、共感覚は精神疾患じゃないです。「当事者が書いたよ」くらいの意味でつけております。あんまりタグ増やすのもよくないので。
この本の感想ですが、結論から言うと、「興味深いが、興味深いだけ」という感じです。
著者は共感覚者で、東大中退。いまは普通にお仕事をしているそうです。共感覚者としては、音に色が見えたりするわけですが、さらに変わったことに、女性の排卵に色や音が伴っているように感じているのだそうです。
それ自体は十分興味深く、読んでよかったなと思うのですが、その先が…ね…。なんというか、「排卵を感じる能力は、昔の人にはきっとあったと思う、女性を孕ませてあげるのに重要な能力だ!」と論が進んでしまい、大変残念でありました…。
頭は良い人なのだと思いますが、大学を中退したために、考え方というものを誰かに付いて学ぶ機会がなかったのだと思います。
当事者による報告であっても、学術的な見方と上手に融合すれば、当事者・読者共に得るものが多いと思うのですが、一人で書いていると、どうしても「自分アゲ↑↑」的な部分が出てしまい、読者としては鼻白んでしまいます。
当事者の報告としては、未読ではありますが、「火星の人類学者」の人の本なんかはしっかりしてそうなので、いずれ読んでみたいと思っています。
書くときの客観性というのは、筆者にとってはストレスになるということはよくわかっていますが、しかし、そのストレスは読者の得るものを最大化するための投資なのだと思って書いてほしいと思います。
わたしの意見としては、感覚にはそもそも個人差があるので、共感覚者も非共感覚者もわーっと一緒に生きていける社会であればいいと思っています。その際には、どちらが偉いとかどうとか、(思っていても)言わないことが大切かなあと思います。
中学のときに、音楽の先生が、「いまどきの子どもは、後ろ向きに歩くのが苦手になってるらしい、これは退化だ、まずい!」って言ってたのを聞きながら、「つかわねー能力はなくなってもいいだろうがよ」と思ったのを思い出します。
共感覚が退化して、いまいる人々のほとんどが非共感覚者になったのかもしれませんが、だからといってそれは責めるべきか?ということです。必要になったらまた淘汰圧によって進化が起こるのですから、いま生きている個体が「かつてあった能力を取り戻そう!」とがんばる必要があるのかわかりません。というか、がんばればそのような能力を手に入れることができるのかそもそも不明です。
介入できないものに介入しようとすると、オカルトっぽくなるからやめたほうがいいよ、と思います。
なお、前後して、たまたま、感覚知覚心理学の本を買いました。感覚知覚心理学について、学術的にさくっと学びたい人はこちらをどうぞ。
綾部先生が編集しているので、嗅覚に1章割いてあります。珍しいと思う。
『スタンダード感覚知覚心理学』
松井豊・綾部早穂・熊田孝恒(編) サイエンス社 2014年
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア 早川書房 1987年
大好き僕らのハヤカワSF。
わたしはなにかが足りないと思ったら、とりあえず一人で紀伊國屋書店のハヤカワの棚に行く、みたいな人生を送っているわけで、別にこんなところに書くためとかじゃなく、定期的にSFを読んでおります。
かっこいいタイトルだなーと思って、前から読みたかったんです。
機は熟した、と思ったので、買って、先日読みました。
おもしろかった…。
3編の中編作品と、それをつなぐ背景作品が収録されていて(作中書が3冊、ということ)、一応、ひとつの小説ということになっているんでしょうか。
作者のティプトリーは、Wikipediaを見てもらえばわかりますが、心理学の博士号を持っている、なんと、女性です。
老人ティプトリーの死んだ年はわたしの生まれた年なのですが、その頃で女性の博士号って、アメリカでもまだそんなに普通のことじゃなかったんじゃないでしょうか。
>博士試験のストレス解消のためにSF小説を書き始めた。
>その後、同大学で実験心理学の講師を務めるが、1968年、身体を壊して辞職。
>インタビューで彼女は「男性的な名前はうまい擬装のように思えた。男の方が落とされないという感じがした。これまでの人生で女だからという理由で職業的に散々ひどい目にあってきたから」と語っている。
う、うわああああ!
アカデミック、国も時代も変わってるのに、女にとって暮らしにくいところであることに変わりなしかよ!!!
つらっ!
ともあれ、名誉のための勇気があるのなら、どこで死んだって、それが、たったひとつの冴えたやりかたなんだろうと思います。
作者ネタで過去に紹介した小説としては、こちらもあります。
あ、これもハヤカワだ。
『今日から地球人』
マット・ヘイグ 早川書房 2014年