私家版・心理学の本棚

じょー、本を読んでいろいろ書くことを決意。

『たったひとつの冴えたやりかた』(ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア)

たったひとつの冴えたやりかた

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア 早川書房 1987年 

 

大好き僕らのハヤカワSF。

わたしはなにかが足りないと思ったら、とりあえず一人で紀伊國屋書店のハヤカワの棚に行く、みたいな人生を送っているわけで、別にこんなところに書くためとかじゃなく、定期的にSFを読んでおります。

たったひとつの冴えたやりかた

かっこいいタイトルだなーと思って、前から読みたかったんです。

機は熟した、と思ったので、買って、先日読みました。

おもしろかった…。

3編の中編作品と、それをつなぐ背景作品が収録されていて(作中書が3冊、ということ)、一応、ひとつの小説ということになっているんでしょうか。

作者のティプトリーは、Wikipediaを見てもらえばわかりますが、心理学の博士号を持っている、なんと、女性です。

ジェイムズ・ティプトリー・Jr. - Wikipedia

老人ティプトリーの死んだ年はわたしの生まれた年なのですが、その頃で女性の博士号って、アメリカでもまだそんなに普通のことじゃなかったんじゃないでしょうか。

>博士試験のストレス解消のためにSF小説を書き始めた。

>その後、同大学で実験心理学の講師を務めるが、1968年、身体を壊して辞職。

>インタビューで彼女は「男性的な名前はうまい擬装のように思えた。男の方が落とされないという感じがした。これまでの人生で女だからという理由で職業的に散々ひどい目にあってきたから」と語っている。

 

う、うわああああ!

アカデミック、国も時代も変わってるのに、女にとって暮らしにくいところであることに変わりなしかよ!!!

つらっ! 

ともあれ、名誉のための勇気があるのなら、どこで死んだって、それが、たったひとつの冴えたやりかたなんだろうと思います。

 

作者ネタで過去に紹介した小説としては、こちらもあります。

あ、これもハヤカワだ。

 

『今日から地球人』

マット・ヘイグ 早川書房 2014年

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『日本パーソナリティ心理学会20年史』(日本パーソナリティ心理学会20年誌編纂委員会)

『日本パーソナリティ心理学会20年史』

日本パーソナリティ心理学会20年史編纂委員会 福村出版 2015年 

 

さて。

わたしほどになりますと、買わないでも本が増えるんですよね。

最近はこちらをいただきました。

読んだかというと読んでませんけど、知ってる先生の寄稿とかはさらっと読みました。偉大な先輩方が、パーソナリティ学会を発展させてきたことがよくわかりました。(真面目)

こちらの学会の歴史についての本ですね。

日本パーソナリティ心理学会

なお、twitterでも大人気の渡邊先生の、おそらくは院生の頃の写真が載っていて衝撃的でした。衝撃的に雰囲気が変わってない…。

渡邊先生のtwitterはこちら、渡邊先生の御尊顔(大きな写真)はこちら。

いやはや、歴史を知るのはおもしろいですねえ。

 

ちなみに、冒頭で、「買ってないけど」などと言いましたが、たぶん学会の会費から出ている部分もあると思うので、むしろ、「わたしほどになると、知らない間に本代を徴収されていた」とかが正しいかもしれないです。

 

しばらく前ですと、これなんかは、正真正銘、無料でいただきましたね。(ご恵贈いただきありがとうございました。)

 

これを機にパーソナリティ心理学を勉強したい人は、このへんとかどうぞ!

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『状況に埋め込まれた学習―正統的周辺参加』(ジーン・レイヴ、 エティエンヌ・ウェンガー)

『状況に埋め込まれた学習―正統的周辺参加

ジーン・レイヴ エティエンス・ウェンガー 産業図書 1993年 

 

状況に埋め込まれた学習―正統的周辺参加

産業図書
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この本、すごくよかったです。

ともすると、学習って、教室・黒板・机・椅子・教科書・ノート・教師・生徒、みたいなイメージになっちゃうじゃないですか。

けど、そうじゃないんだよ、って、言ってるんですね、この本は。

言ってしまえば、生きているということは学びの連続です。学校に行っていないから学んでないかっていうとそんなことないわけです。そういうことを言っています。

そんなことの書いてあるこの本を読んで、わたしは、自分の生きている世界と、わたしというものの関係性について、とても深く納得ができたと感じたのでした。

言ってみれば、学習によって社会は再生産されていて、その中ではあらゆるプレイヤーが、正統的周辺参加という方法をもって、それに関わっているのです。教わっていたのがいつのまにか教える方になって、といった具合に。

そう考えると循環的な理論ですよね。循環的な理論といえばやっぱりこの人のことも思い出されたりするわけです。

エリク・H・エリクソン - Wikipedia

お世話されていたのがお世話する方になって、与えたりもらったりしながら社会の再生産に関与して、この世を卒業していくという人間像を持った理論ですよね、エリクソン理論も。

そういう、循環的なもののことを思うと、とても安心します。特に、うまくいっていないときに、それは救いであり希望です。

おまえは心理学の本を読んで感動したり希望を持ったりしているのか、と変な目で見られそうですが、実際のところ、そうです。

わたしは心理学に救われているんだなあ、という意味において、この本なんかは本来的に「癒し系」な本です。

救われたい人はぜひ。

 

なお、エリクソンのことはこちらなんかでご確認いただければと思います。

 

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『貧困の精神病理』(大平健)

『貧困の精神病理』

大平健 岩波書店 1996年

 

『やさしさの精神病理』、『豊かさの精神病理』、と読んできたわたしですが、『貧困の精神病理』もちゃんと読みました。大平健、始まりの書ですね。

おもしろかったです。精神病理学というのが何なのかがわかりました。病理学を精神(科)領域に応用したものなのですね。納得。

『貧困の精神病理』は、副題にあるように、ペルーの社会についての考察です。考察、といっても、ちゃんとペルーに住んで、いろいろ関わって、書きとめて、整理したものなので、机上の空論ではもちろんありません。『やさしさ~』や『ゆたかさ~』での大平先生は、部屋にこもってばかりでしたが(精神科医だからね)、『貧困の~』ではアクティブです。

貧困が繰り返されるという現象について、精神構造が受け継がれるためであると考察しています。精神構造についての考察では、父性とか母性とか、実に精神科医らしい語が用いられています。全体を通して、繰り返される「貧困」という経済的状況の発生プロセスをきれいに描いているように感じられて、読んでいてすっきりしました。

ともあれ、同時に、前2冊について感じた、「そういう事例ばっかり挙げてるんではないの」という疑問はやっぱり浮かびましたけれども。

なかなか良い読書でした。

日本でも、貧困について関心が高まっていますので、他の国での貧困を考えつつ、自分なりに日本の貧困を考えるために手に取るには最適な本だと思います。

 

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『よくわかる産業・組織心理学』(山内裕幸・金井篤子)

『よくわかる産業・組織心理学』

山内裕幸・金井篤子 ミネルヴァ書房 2007年

 

ちょっと会社というところに行かねばならなくなったので、自衛のために読んでみました。

産業・組織心理学というのは、学部から心理学を始めちゃった人間には、なかなかご縁のない分野なのですよね。やっぱり、会社というところがわからないままに勉強するのは難しいというのがあると思います。

かくいうわたしも、10年も心理学を勉強していての未開の地、産業・組織心理学でございました。

 

いやー、おもしろかったですね。

なんというか、研究の意図がはっきりしているので、読んでいてすがすがしかったです。もちろん、研究の意図はずばり、「会社を儲けさせるための人事戦略」ってところでしょう。

だからなのか、制度作りや介入というものが念頭に置かれた変数で研究が進んでいるという印象を持ちました。介入可能な概念ばかり提唱されているというか。そういうのは、もうちょっと基礎に寄ると、あんまりないような気がします。

 

この本は、やっぱり、人事部に配属されたら読んでいてほしい…。これくらいは…勉強していてほしい…。せめて…。

でも、人事部の人だけではなく、これから会社に入る人にも読んでほしいなと思いました。人事部的視点で会社を見れるようになると、シュウカツってなんなのかとか、働くってどういうことなのか、といったことについて、前より多角的な考えを持つことができるのではないかと思います。あと、メンタルヘルスの章があるので、自衛にも役立ちます。

しかしながら、いきなり読むのも悪くはないのですが、やっぱり社会心理学が事前科目だな、という感じではあります。産業・組織心理学は、応用分野なので、できれば、社会心理学あたりで、対人関係の理論とか、ストレスの基本事項とかを抑えてからチャレンジしたほうが、すっと入ってくると思います。

その点では、『マネジメントの心理学』のほうが初心者向けかもしれません。

 

『マネジメントの心理学:産業・組織心理学を働く人の視点で学ぶ』

伊波和恵・竹内倫和・高石光一 ミネルヴァ書房 2014年

 

マネジメントの心理学: 産業・組織心理学を働く人の視点で学ぶ
伊波 和恵 竹内 倫和 高石 光一
ミネルヴァ書房
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なんか、ミネルヴァ書房のまわしものみたいになっちゃった!

偶然だよ!

 

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2015年9月の記事のまとめ

9月は、本を1冊紹介しました。

あとは、「学会で買っちゃった☆」が3冊ですね。

買うから読むのであって、読むから買うのではない。人は、買った数より少なくしか読めないのだ…。そうこころに言い聞かせて買っております。

 

・心理学の本

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・学会で買いました

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